北京でIT会社を経営する易シン(※「シン」は日へんに斤・イーシン)さん(33)もプレゼンをした。中国のNPOや公益財団向けに営業支援やデータベース構築のITソフト作成、コンサルティングを行っている。

 ラジオ局に勤めていた08年、四川大地震が起きた。復興支援のボランティアをしていたが、そこで出会ったボランティア団体の人事やプロジェクト管理のやり方がみな、あまりにアナログなことに驚く。ITを活用すれば組織管理や運営も効率的にできるのでは、と13年にアマゾンのエンジニアだった大学の同級生2人を誘って起業した。

 アマゾンにいるのに何も起業しなくても……というのは旧世代の感覚で、「大きな会社では自分の出来ることに限界があるので。能力を発揮してやりがいがあることをやりたいから」。

 今や利用者数は5万人を超え、スタッフは30人だ。「ジョウリンホウ(90後、90年代生まれの意)」ばかりだという。

 北京の北西部、北京大学や清華大学の近くにある中関村地区。IT企業が集積して北京のシリコンバレーとも呼ばれる。今年3月に北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が視察した場所だ。

 その一角に創業大街(英語でZ-innoway)と呼ばれる所がある。200メートルほどの通りで、もとは本屋街だった。それが今では政府の方針もあって生まれ変わり、インキュベーション施設やWi-Fi完備のカフェ、投資機関の窓口やシェアオフィスなどが立ち並ぶ。ここで若い起業家がアイデアを練り、ネットワークをし、製品を開発している。

 カフェの一つ「十月」は5月にオープンしたばかり。オーナーのトウ欽(※「トウ」は登におおざと・トウチン)さん(23)は開店時はまだ大学に在学中だった。

 ずっと起業に興味があり、大学入学以来授業にはまともに出ず、IT企業やベンチャーなどでインターンを重ねてきた。その中で、「オンライン出版や宣伝のためのブックカフェを手伝ってもらえないか」と北京の老舗の出版社に声をかけられ、願ってもないチャンスだと同級生4人と引き受けた。「十月」はその出版社の看板雑誌の名前だ。

 大きな書店だった場所をリノベーション、店舗デザインも自分たちでやった。24時間営業で、夜にはお酒も出す。平日はこのあたりの起業している若者たちが仕事をしに、週末には40代の人たちが懐かしがって本を読みに来るのだという。「まずは経営を安定させて、すべてはそこから」(トウさん)

(朝日新聞編集委員・秋山訓子)

AERA 2018年9月24日号