男女、そして大人と子どものロボットたち。自分の子や孫などの声にも設定でき、子ども用ロボットの高さは、お年寄りの座る高さを意識してつくられた(写真:黄剣峰さん提供)
男女、そして大人と子どものロボットたち。自分の子や孫などの声にも設定でき、子ども用ロボットの高さは、お年寄りの座る高さを意識してつくられた(写真:黄剣峰さん提供)
創業大街は、街の案内のデザインなども統一されておしゃれで洗練された雰囲気。こういう案内板がいたるところにある (c)朝日新聞社
創業大街は、街の案内のデザインなども統一されておしゃれで洗練された雰囲気。こういう案内板がいたるところにある (c)朝日新聞社

 ITの進化が速い中国。最前線の技術には投資も集まる。若い世代はITで起業をめざす。利益と社会貢献の両得をねらう人たちも多い。

【この記事の写真の続きはこちら】

*  *  *

「いま、中国では9割以上の老人が自分の家で最期を迎えています。彼らは老人ホームには行かない。でも子どもたちは外で仕事をしています」

 AI技術者で起業家の黄剣峰(ファンジェンフォン)さん(39)は6月、深セン(※「セン」は土へんに川)でプレゼンをしていた。黄さんはお年寄りのお相手ロボットである「康益三宝」(健康に三つの利益、の意)を開発中だ。

 4回目を迎えた中国社会的企業・社会的投資フォーラムの一幕で、中国全土から起業家や投資家、NPOや財団投資家ら約千人が集まった。起業家が投資家らとの出会いをめざして次々と登壇し、売り込んだ。

 利益だけでなく、社会貢献もめざす社会的企業。貧困や高齢化、環境など社会課題がてんこ盛りの中国では関心が高まっているが、今回の特徴はITをはじめとするテクノロジーを利用した企業が非常に多いことだ。

 毎年同フォーラムを取材しているが、中国ではテクノロジーの進化と定着が恐ろしく速い。一昨年はウィチャット(中国版LINE)がなければ取材に支障をきたし、昨年は食事の「割り勘」もスマホが当然になっていて、今年は市場で買い物をするのに現金を出したら驚かれた。

 社会的企業もテクノロジーも、社会変革の最先端をいくという意味では共通しており、親和性があるのかもしれない。若い世代が両者を組み合わせ、どんどん起業している。黄さんの取り組みも、単なるロボットやAIではなく、あくまでも「お年寄り向け」である点が特徴だ。なぜお年寄り?

「両親が出稼ぎをしていて、おばあさんに育ててもらったんです。大学の時に亡くなったんですが、何も恩返しができないままにそばにいてあげられず、すごく悔しかった。こんな思いを他の人にさせたくない」

 アリババなどの技術者を経て2015年に起業、昨年の9月に初試作品ができた。 ロボットは目など顔の表情もあり、会話もできる。血圧計測や一緒にダンスすることも可能だ。24時間モニターし、万一の時には病院につながり、医師らが駆けつけるという。

 経済も拡大中の中国は、商機があると見れば投資家は寄ってくる。15年まで一人っ子政策をとっていたため、日本同様に少子高齢化が深刻だ。黄さんの事業にもフォーラムだけで1千万元(約1億6千万円)の投資が決まった。今年中には商品として発売したいという。

次のページ