平昌五輪フィギュアスケート男子で2連覇を成し遂げた羽生結弦が、今シーズンの練習を公開した。達成感を十分に味わった王者が再び滑る。今度は「自分のために」だ。
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やりきった。出しきった。
達成感が、心を満たしていく。今年2月、平昌冬季五輪で、フリーの演技を終え、宿舎に帰ったときの心境を羽生結弦(23)は明かす。
「いい意味で『もう、いいかな』とは思っていました。やるべきことはやったなと思いましたし、金メダルをとって、部屋に戻って、一番最初に感じたことは、『ああ、今までがんばってきてよかったな』っていうことだったので」
羽生は練習拠点にしているカナダ・トロントで8月30日に練習を公開した。その際、本誌の単独インタビューにも答え、平昌五輪後から今に至るまでの心境を赤裸々に語った。
そう、羽生は本人が語るように、がんばってきた。練習拠点だったリンクの閉鎖や、東日本大震災もあった。つらい出来事に直面しても、脇目も振らず滑ってきた。
グランプリ(GP)ファイナルは、2013~16年まで4連覇し、世界選手権は14 年と17年の2度制した。全日本選手権も12~15年の4連覇。ショートプログラム(SP)は17年オータム・クラシックで112.72点、フリースケーティングは17年世界選手権で223.20点、総得点は15年GPファイナルで330.43点と、いずれも歴代最高得点を記録した。そして、ソチ、平昌の五輪連覇だ。栄光の限りを、手にした。
平昌五輪後、痛めていた右足首の治療のため、リンクに上がれない時期が1カ月ほどあった。スケートから離れたわずかな時間が、羽生の心に変化を生じさせる。達成感以外の思いが、むくむくとわいてきた。
「オリンピックが終わって、1カ月間、スケートができない状態だったころに、ずっと考えていて。もう、勝つとか負けるとか、そういったものに固執しすぎる必要はないのかなと思った。同時に、自分のために滑ってもいいかなと思って」
再び歩み始めると決めたとき、背中を強く押してくれる力が必要だった。羽生はそれを、「あこがれ」に求めた。
今季のフリーの曲、「Origin(オリジン)」はエドウィン・マートン作曲の「アート・オン・アイス」をベースにした。この曲は、羽生にとって忘れられない一曲でもある。永遠の目標、ロシアのエフゲニー・プルシェンコ(35)が、03~04年シーズン、フリーのプログラム「ニジンスキーに捧ぐ」で使っていた曲だからだ。
「オリジンには『起源』『始まり』という意味を持たせたかった。プルシェンコさんのことは、ずっと、こういうふうになりたいなと思いながら見ていて。小さいころからやりたいなと思っていました。『ニジンスキー』を滑っているときの圧倒的なオーラ、ポーズ。音に合わせている動き、ジャンプ。すごくひかれた記憶があります」
SPはラウル・ディ・ブラシオ作曲の「秋によせて」に決めた。これも米国のジョニー・ウィアー(34)が04~06年シーズンのフリーで使用していた曲だ。
「衝撃的だったのは、男性だからこそ出せる中性的な美しさ。ジャンプを降りたときの流れや、姿勢。一つひとつの丁寧さ。やっぱり一番はランディングの美しさかな。そこにすごくひかれて、自分もこういうふうに跳びたいな、滑りたいなって」