●鞭を当てない普通の子育てやり方がわからなかった

 子どもの頃にエホバの証人の2世の友だちがいた夫には教団への偏見がなく、夫の両親とともに彼女をすんなり受け入れてくれた。「彼は私の自由や意思を尊重してくれる」と感謝する。ただ、夫に深い話はしていない。「同じ2世でなければ理解し難い面があるのでは」と思うからだ。

 子育てでは、鞭を当てない普通の育て方がわからず途方に暮れた。部活や習い事といった経験もしてこなかった。「放任、ネグレクトに近いかも」と、冗談めかして子育てを振り返る。それでも、子どもをのびのびと育てられたことで気持ちが楽になったという。

 組織にいた当時の自分を「可哀想に思う」と憐れむ彼女は、今も教団にいる2世に、こう語りかけた。

「教団の中にいると選民意識に洗脳されるが、それは誘導されている思考回路だと気づいて疑問を持ってほしい」

 亡くなった父親は信者にならず、彼女の受け皿になってくれたという。

「父がいてくれたから辞める決意をすることができた。存在が救いだった」

 難病を患った母親は、信仰を持ったまま輸血を拒否して亡くなった。

「よりどころとしての信仰を持ったままのほうが良い人もいる。それぞれの選択だが、そのための材料は与えるべきだ」

 教団組織の存続には反対していない。そこにはコミュニティーや生きがいといった様々な意味合いがあり、母親にとっては文字通り「命をかけた信仰を貫く場所」だったからだ。

 教団で学んだことの全てがデタラメや無意味なものだったとは捉えていない。2世としての経験は「大概のことには耐えられる」精神的強さを彼女に与えた。そして自身も親になったことで、「子どもを救いたい一心だったのだろう」と、当時の母親の気持ちが理解できた。

 彼女は最後にこう語った。

「もう一度同じ境遇に生まれたくはないが、同じ親のもとには生まれたい」

 1980年代ごろから、一部の新宗教団体による正体を隠した勧誘やマインドコントロールを用いた教化・金銭収奪などが社会問題となり、「カルト(※)」と指摘され始めた。この時期のメンバーが親の世代となり、生まれた時から団体の教えを教育されてきた2世が、生きづらさを訴えている。

「旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)」のある2世は、親からこう言われて育った。

「お前は本来、私たちの子ではない。お父様(教祖)の血統を引く神の子であり天からの授かりもの」

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