47種類もの広告を、同じ日の朝刊に全国各地で展開する。前代未聞だろう。いったい何のために行われたのか。



 なにしろパナソニックが同じ日の朝刊に、47種類もの広告を展開したことを知る人はほとんどいない。仮に京都新聞の読者であれば、その日の朝に届いたのは、京都バージョンだけだからだ。厳密には地方紙に加えて全国紙も取っている世帯であれば、周辺都道府県のバージョンを目にした可能性はあるが。

 ともあれ3月9日の朝に展開された広告の全体像を知る読者など、関係者以外に一人もいないだろう。パナソニックとしては、わざわざ47種類もの広告をつくって展開した事実を広く知ってもらうことが、この企画の主な意図ではなかったといえる。

 実際、パナソニック企業宣伝室室長の相川貴之さんは「全国規模で異なる広告内容を展開することによる話題性を狙ったものではありません」と言い切る。落ち着いたモノトーン調の紙面から伝わってくるメッセージは確かに「100周年、すごいでしょう!」といった、浮かれた調子のものでは決してない。

 むしろ控えめな見出しに続く長めの文章をすべて読まないと、内容が伝わらない仕立てとなっている。逆にいえば、「最後まで読んでほしい」との思いが込められた広告である。改めて読むと、どのバージョンからも地域への感謝の気持ちが伝わる。

 松下幸之助が全国各地でどのような活動をしてきたのか。エピソードや現地で残した言葉を基本テーマとして組み立てられた広告が、全体として発しているメッセージは「感謝」である。(ライター・竹林篤実)

AERA 6月18日号より抜粋