一方、草野球チームは慢性的にメンバー不足で募集をしているところが少なくない。キャッチボールやバッティングの基本練習のできる場をつくることで、両者をつなぎ野球を活性化させたい思いが元高校球児の大森さんにはある。

 この日の参加者のなかには、春からの社会人生活に備え、練習に来た大学生もいた。野球は未経験。大森さんの職場でも20~30代の若い世代のなかには一度もグローブを持ったこともない人も珍しくないという。

「僕の子ども時代では考えられないことです。このままいくと野球は廃れてしまう。大人の競技人口を少しでも増やせたらと思います」(大森さん)

 17年、プロ野球は過去最高の観客動員数を達成。今春の選抜高校野球大会も30年ぶりに満員通知が出るなど活況を呈している。しかしその一方で、足元では子どもたちの「野球離れ」による競技人口の減少が少子化を上回る勢いで進行している。

 中学校の軟式野球の部員数の推移を見ると、09年は約30万人で全競技で1位。しかしその後減り続け、13年にはサッカーと首位が入れ替わり、16年には20万人を切った。

 さらに4~9歳の男子が「過去1年間によく行った運動・スポーツ」では、09年のトップはサッカーで実施率が約4割。野球は4位で実施率約2割だったが、13年にはトップ10圏外に落ちた。

「10年を境に子どもたちの野球離れが顕著になりました。テレビの地上波の野球中継が激減したことが影響しています。中継が入らない地方では、野球そのものを知らない子どもたちも増えています」

 そう警鐘を鳴らすのは『野球崩壊』(イースト・プレス)の著書のある、ライターの広尾晃さん(58)だ。

 気軽に遊べる場所がなくなり、サッカーなど他のスポーツの選択肢も増えた。加えて、親の関わりや経済的な負担の大きさ、封建的な体質を思わせる一面も敬遠される一因になっている。

 広尾さんは言う。

「深刻なのは、野球の『ライト層』が育たなくなった点です。子どもたちが空き地で遊んでいた時代には、そのなかからプロ野球選手になるようなエリート層と、うまくなくても野球が好きでファンとなって興行を支えるライト層が生まれました。高校野球では100人を超す部員を抱える強豪校もあり、それをもって野球離れを否定する人もいますが、コアな競技者だけでは野球の興行は成立しません」

次のページ