【図1】 エレファントカーブ(AERA 2018年6月4日号より)
【図1】 エレファントカーブ(AERA 2018年6月4日号より)
【図2】 増える移民の数(AERA 2018年6月4日号より)
【図2】 増える移民の数(AERA 2018年6月4日号より)
【図3】 EU13カ国 下院選挙での得票率(AERA 2018年6月4日号より)
【図3】 EU13カ国 下院選挙での得票率(AERA 2018年6月4日号より)
【図4】 輸出シェア(AERA 2018年6月4日号より)
【図4】 輸出シェア(AERA 2018年6月4日号より)
【図5】 GDP成長率(AERA 2018年6月4日号より)
【図5】 GDP成長率(AERA 2018年6月4日号より)
【図6】 失業率(AERA 2018年6月4日号より)
【図6】 失業率(AERA 2018年6月4日号より)

 自国優先主義や大衆迎合主義(ポピュリズム)が台頭する欧米諸国で何が起きているのか。難しい話でも図解にすると一目瞭然。頭にすっと入ってくる。

【図表で見る】1990年以降の移民数の推移はこちら

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 トランプ米大統領の登場やナショナリズムの台頭、ブレグジット(英国のEU離脱)の判断。全てを理解するヒントになる──。各国のメディアで、そう評価を受けたグラフがある。

 元世界銀行エコノミストで、ルクセンブルク所得研究センター上級研究員のブランコ・ミラノビッチ氏が、2016年に出した自著内で紹介した「エレファントカーブ」(図1)。鼻を上げた象に形が似ていることから、そう呼ばれているユニークなグラフだ。日本でも著書の和訳『大不平等 エレファントカーブが予測する未来』(みすず書房)が出版されている。グローバル社会における富の配分状況がよく分かるデータとして世界中で話題となった。

 グラフは、収入が最も多い人から少ない人までを世界規模で100グループに分け、各グループの所得が、リーマン・ショックが起きた08年までの20年間でどれだけ増えたかの割合を示している。所得増率が最も高いのは、中国を始めとする新興国の人々(象の頭の部分)と、全体のわずか1%にあたる超富裕層(象の鼻先)。一方で、唯一ほとんど増えていないのが、欧米や日本などの多くの人たちが属する先進国の下位中間層(鼻の付け根)だ。

 確かに実感はある。自分のことになれば看過できないし、これが20年も続いているとなれば、不満が爆発するのは当然だ。こうした背景があり、欧州では移民ら自国民以外の人に背を向けるポピュリスト政党への支持の増加、米国では自国第一主義を掲げるトランプ大統領の当選といった、これまでの既成体制からの変化を求める強い傾向を生み出したとすれば、理解できる。

 国際情勢はいま、大きな転換期を迎えている。米英のみならず、国際協調の旗印である独仏などの欧州各国でも、国際協力の象徴的枠組みであるEUの存在に懐疑的な政党が勢いづいている。他より自を重んじる内向きの思考が強まっているのだ。

 何がそうさせているのか? 本誌はこれまでも多くの分析記事を掲載してきたが、まさに百聞は一見にしかず。冒頭のエレファントカーブのように、ひと目で状況が把握できる良質のグラフや図解は理解しやすい。エレファントカーブには、世界中の人の所得増減のデータが反映されており、作業量は膨大だっただろう。専門家の深い研究や分析結果が凝縮しているから信頼性があり、さらに複雑な状況を端的に説明してくれるのが、図やグラフの大きな魅力だ。

 本誌は今回、激動する欧米情勢を分かりやすく解説するため、シンクタンクのみずほ総合研究所(東京)の協力を得て、同研究所欧米調査部が情勢分析をするうえで作成した数々の図やグラフの提供を受けた。

 吉田健一郎・上席主任エコノミストが説明する。

「グローバル化で、ヒト、モノ、カネが地球規模で自由に動くようになった。ヒトは移民、モノは貿易、カネはマネーフローの動きを追って分析することで、ポピュリズムの台頭の背景を探った。こうしたグローバル化の影響に加え、世界経済の停滞の影響も考えた」

 1990年以降の移民数の推移(図2)を見ると、世界規模で右肩上がりに増えており、増加幅では、EU諸国と米国が大きいことが分かる。吉田氏によるとEU諸国では、ポーランドやチェコ、ハンガリーといった東欧諸国がEUに新加盟した04年以降、西欧諸国への移民が増えた。英国にもポーランドなどからの移民が多く流入した。EUの政策に縛られず、自国判断で国境を管理するべきだとする世論を高め、結果的に16年の国民投票でEU離脱に傾いた理由の一つにつながったとされる。

 米国での移民増加は、主にメキシコからだという。不法移民も多く、トランプ政権は問題視しており、メキシコ国境に壁を設置する公約の素地となった。

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