「人のフローが増えたことで、移民の数が世界全体でも増えた。移民の流入が生み出す摩擦や不満が、ポピュリズムの台頭の背景の一つであることは間違いない」(吉田氏)

 ヒトの動きは特に政治経済共同体であるEU内では活発だ。一つの国で移民の流入があれば、EU内のどこでも同じ現象が起きる可能性がある。それだけに移民が問題視されれば、欧州各国で共通の課題となる。経済的な豊かさを求める移民に加え、14年以降は、中東やアフリカなどからの難民がEU諸国に殺到する「欧州難民危機」が起こり、EU各国で社会不安をもたらした。

 こうした不安に反応して、反移民・難民、反EUを訴えて支持を伸ばしたのが、ポピュリスト政党だ。みずほ総研が独自の分析でまとめた欧州13カ国の17のポピュリスト政党の得票率(図3)は、上昇傾向にあり、平均で16%近くに達している。

 フランスでは昨年5月、極右政党「国民戦線」のルペン党首が大統領選の決選投票まで進んだほか、ドイツでも昨年9月の総選挙で、新興右翼「ドイツのための選択肢(AfD)」が第3党となる躍進を見せた。その傾向は今年も続き、3月にあったイタリア総選挙では、ともにポピュリスト政党の「五つ星運動」と「同盟」が連立政権を樹立する方向になった。

モノの流れはどうだろうか。同研究所が注目した主要国の輸出シェアの推移(図4)を見ると、中国が一人勝ちの状態となっているのが、よく分かる。「中国の台頭で、自国製品が海外で売れなくなる現象が起きている」(吉田氏)。モノが動けばカネも動く。トランプ大統領が、中国を名指しして、強引に米国の貿易赤字を解消させようとするのも、こうした現状を踏まえたものだ。

 ただ、その中国の経済成長にも昔ほどの勢いはない。世界のGDP成長率の推移(図5)を見ると、中国を筆頭とする新興国の経済成長が世界平均を押し上げてきたが、13年前後から先進国との成長率格差が縮小してきたのが見てとれる。吉田氏が解説する。

「全体として約5%の成長をしてきた世界経済が、リーマン・ショックが起きた08年前後を境にして低迷した。それでも中国が強いうちは、牽引役を引き受けてくれたが、徐々に新興国にも頼れなくなってきた」

 経済の低迷は、失業率を高める要因の一つになった。「欧州各国の選挙で、既成政党の支持率が停滞し、ポピュリスト政党が勢いを得た原因を考えると、移民、難民、失業の問題に既成政党が応えられなかったことがある。失業率がなぜ高まったかというと、一つは経済成長率の低下があるのは確実だ」と吉田氏。失業率が高止まりしているフランスやイタリア(図6)では、ポピュリスト政党の台頭も顕著だ。

「雇用は経済的にも政治的にも極めて重要な問題。経済成長が実感できなくなっている中で、経済ショックの後遺症が残っている国がまだいくつかある。政治は何もしていないという不満が既成政党に向けられている」

 確かに欧州各国では、安定政権に必要な過半数の議席を得た既成政党は少ない。みずほ総研が作成した欧州28カ国のデータを見ると、第1党が単独で過半数の議席を獲得しているのは、フランス、ポーランド、ハンガリー、マルタの4カ国のみ。これにはナチス・ドイツの反省から、多党乱立で権力の集中を避けて複数政党の連立政権を好む政治志向が欧州各国にあり、選挙制度として比例代表制がとられている国が多いことも影響している。

 ただ、英国で二大政党の一つである与党・保守党は昨年6月の総選挙で過半数割れとなったし、ドイツで圧倒的な影響力を誇るメルケル首相のキリスト教民主・社会同盟も前回選挙から60議席以上も減らし、過半数に大きく届かなかった。既成政党への向かい風が、ポピュリスト政党の台頭につながっていることは疑いのない状況だ。(編集部・山本大輔)

AERA 6月4日号より抜粋