テクノロジーは高齢者を、そっと、静かに見守ったりもする。Z-Worksが開発する「施設向け介護支援システム」は、高齢者の寝室に心拍数や呼吸数を検出できるレーダーを設置。ほかにも、人の所在や部屋の明るさ、温度、湿度、ドアの開閉を検出するさまざまなセンサーを組み合わせ、高齢者を見守る。

 ここから得た膨大なデータはクラウドで解析され、異常を検知。例えば、「トイレから20分経ってもベッドに戻らない」「夜中も電気がつけっぱなし」といった異常状況のみ、介護職員などに通知される。

 体に何も装着しなくても呼吸や心拍数が測れるレーダーは、電波を人体に反射し、その反射波を解析する仕組みだ。多少のノイズは拾うというが、高齢者がベッドにいるかいないかは十分検知できる。

 このシステムを手掛けるZ-Worksの開発コンセプトは「がんばらない介護」。介護支援システムにも、代表取締役の小川誠さん(46)が経験したつらい介護経験がベースにある。小川さんの祖母は、夜中にトイレに行こうとしてベッドから転落。その状態のまま朝まで気づかなかったため、肺炎を引き起こしてしまったという。

「何かあったときのために、自分が横に布団を敷いて寝るくらい頑張らないと、介護はできないと考えていた。でもテクノロジーで、負担は軽減できるんですよね」(小川さん)

 iPad画面のボタンを見つめるだけで、タップできるという驚きのコミュニケーション支援システムも開発されている。「リカナス」という名のシステムを使えば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者や、寝たきりで声や動作で意思を伝えることが困難な人が家族や介護者への意思伝達を目線で行える。

 使うのは専用のアプリがダウンロードされたiPadのみ。操作も簡単で、最初に目の形状を登録すると、画面上の見ているところに丸い形状のカーソルが現れる。その丸をタップしたい選択肢のほうに目線で動かしていけばOK。例えば「体調」「食事」「空調」と書かれたボタンから「食事」を見ると、それが選択される。

 また、メッセージを伝えたい相手の名前を目で選べば、それまで選択した全ての内容を送信することもできる。実際に記者もやってみたが、目線通りにスムーズにカーソルが動き、選択ボタンを2秒見つめるだけで、本当にボタンがタップされた。

 そもそもは、自動車のナンバーを読み込むときに使われる画像解析技術を応用。開発したデジタリーフ代表取締役の寺島健一さん(46)は、この画像解析の技術を発揮する場所として、医療介護に目をつけた。

 視線追跡でコミュニケーションをとる同様のシステムは以前からあったが、大きな専用モターを必要として、製品価格は100万円を超えるものばかり。一方、こちらリカナスの製品は、iPadのカメラを使用することで、月額費用を2万2千円まで抑えることができた。

 こうして、先人たちが開発した既存のテクノロジーを借りて、さまざまなケースにフィットする介護が、安く提供される日も近い。そう、テクノロジーは、意外と人にやさしいのだ。

(ライター・福光恵、編集部・柳堀栄子)

AERA 2018年6月4日号より抜粋