修士課程2年の持田尚吾さん(左から2人目)は、見てわかるホログラフィーの面白さに惹かれて、粟辻教授の研究室に入室した(撮影/MIKIKO)
修士課程2年の持田尚吾さん(左から2人目)は、見てわかるホログラフィーの面白さに惹かれて、粟辻教授の研究室に入室した(撮影/MIKIKO)
透明の板に映った犬の置物のホログラム。通り過ぎた人が戻って二度見する(撮影/MIKIKO)
透明の板に映った犬の置物のホログラム。通り過ぎた人が戻って二度見する(撮影/MIKIKO)

「定員厳格化」を受け、2018年度入試は私立大学の難化が顕著だった。狭まる合格枠に学生が殺到する中、本誌は地方国公立大学に目を向けた。世界的規模の研究拠点がある大学、オンリーワンの技術を開発・発表する大学──。専門性の高い国公立大に注目すれば、受験の幅は広がる。

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 赤いレーザー光を当てると、透明パネルに犬の置物が立体的に浮かび上がった。わかっていても、ついパネルの後ろをのぞき込んでしまう。もちろんそこに犬の置物はない。

「これを科学展などで飾っておくと、通り過ぎた人の100%が戻って二度見します。その人たちを観察するのが、楽しくて」

 京都工芸繊維大学(京都市)の粟辻安浩教授は、日本におけるホログラフィー研究の第一人者だ。ホログラフィーとは3次元(立体)の像を平面に記録し再生する技術のことで、その立体写真をホログラムという。

 原理は1948年にハンガリーの物理学者デニス・ガボールが発明し、ノーベル賞を受賞した。冒頭のような静止画面を記録する技術は昔からあったが、粟辻教授は、動画をクリアな3次元として記録することに世界で初めて成功した人物だ。

 2次元の世界では、デジタルカメラにCCDという半導体素子を使うことで動画を撮ることができるようになった。ホログラムも同様にCCDを使うが、その性質上、1コマ1コマにノイズが映り込んで、肝心の画像が見えにくく使い物にならない。粟辻教授が開発したのは、そのノイズを取り除く技術だ。3次元の動画を鮮明に記録できるようになったことで、さまざまな分野へ対応できるという。

「たとえば精密部品などは3次元の画像で奥行きまで解析し、不具合がないかを調べますが、動画なら生産ラインを止めることなく検査できる。また、運動している細胞も調べられるので、将来的には病理診断などにも応用できるのでは」(粟辻教授)

 この技術をさらに高度化し、光が進む様子を立体的に捉えることに成功した。これも世界初の快挙。「超短パルスレーザー」という特殊なレーザーを組み合わせて可能にしたという。10兆~100兆分の1秒のスピードで光を捉えられるので、高速データ通信の光ファイバー中の信号を観察できるし、レーザー加工のメカニズムも解明できる。

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