──とはいえ、相当難しかったと思います。

 二人は顔もプロポーションもかなり違う。例えば、ゲイリーは目と目の間が近いけれど、チャーチルは離れています。だから、ゲイリーをそのまま太らせて横幅を広げていくと、目の距離はより近く見えてしまう。バランスよく盛り付けて、チャーチルの顔に近づけていくのが難しかった。

 撮影の準備段階で、テストメイクは5回。3種類のテストメイクを作るのに2カ月、その後さらに1カ月かけて2種類を作った。最終的には五つ目のメイクを採用。オールドマンがチャーチルになるのに、毎回3時間15分ほどかかったという。

──今回、改めて特殊メイクを勉強し直したそうですね。

 映画の世界を離れていたからこそ、違うアプローチができました。アカデミー賞授賞式の前日、メーキャップ部門の歴代受賞者のクリップを見る機会があったんです。この仕事ではいつも「リアル」を創り出すことがゴールですが、過去の作品と見比べることで、今回は「メイクとはわからないメイク」ができたということを実感できました。ゲイリーの演技あっての結果ですが、「ここまでできたんや」と満足しています。

──作品賞など4部門で受賞した「シェイプ・オブ・ウォーター」でも半魚人の目を担当しています。

 目が死んでいると、いくらほかの造形がうまくできていても、全部が死んでしまう。目が一番、大切なんです。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2018年4月2日号