「走る動作は下半身ではなく、上半身から生まれます。腕を振るから足のリズムができる。上半身は走るためのエンジンだと思ってください」
フォームでもう一つ、気をつけたいのが、アゴ。
「アゴが上がると、重心は背中側に傾き推進力が失われて、より苦しくなる。多少つらくても気道をふさがない程度にアゴは前に突き出す感じで」
金さんは「フォーム=機能」と話す。
「正しいフォームは身体の機能をフル活用することにつながり、最大の効果を生み出します」
ランニングにハマる最大の理由の一つは、「距離はうそをつかない」ということだろう。運動が苦手でも、やればやっただけ走れるようになり、スピードが増す。20回書いた英単語も翌朝にはすっかり忘れる40歳超えの身で、こんなに成果が出ることは、めったにない。
「ワタシも結構やるじゃん」
自己満足と達成感。走った後にひと風呂浴びると、湯船にストレスがとけていく。たまった仕事も片付く。ような気がする。
距離を延ばすほど、この「やった感」は増す。ちなみに私は仕事がうまくいかなかったときほど、帰宅後に走った。2カ月目で月間100キロ近く。ある夜は午前0時から12キロ。そして翌朝、立てなくなった。
「ああ、一番ダメなやつですね」
金さんは笑う。ストレスを走ることで発散しようと躍起になる人は、むちゃな走りをする傾向が強いという。これが、中年ランナーの落とし穴だ。
「ヤケ酒ならぬ“ヤケ走り”ですね」
金さんによると、ヤケ酒をするタイプとヤケ走りランナーには相関関係があるらしい。
初心者が無理をして10キロ、20キロと走る必要はなく、むしろ、距離より時間を決めたほうがいいという。
「距離を決めてしまうと、どうしても『早く走りたい』という意識が働き、無理が生じやすい。体を動かして20分から脂肪の燃焼が始まるので、最初は目標を30分にして、慣れたら『40分週3回』を目安に走ったほうが、ダイエットにも効果的です」
でも、追い込まないと、充実感がわかないんですけど……。
「GPS対応のランニングウォッチをぜひ使ってください。5キロずつでも、ちゃんと距離を刻んでいることが可視化されて、達成感が得られますよ」
くれぐれも無理はしない。これが鉄則。(編集部・渡部薫)
※AERA 2018年2月26日号より抜粋