と直子さんは言う。何でも英語で表記しておくことが大事だという。平安楽も「Chinese restaurant」と外に貼り出している。ベジタリアンやアレルギー対応だけではなく、宗教上の禁忌で豚肉を食べないムスリム(イスラム教徒)の対応もしてほしいと、行政から冊子を渡されたという。

「専門家が書いた手抜き一切なしの冊子を読めば、できると行政はおっしゃるのですが、そこまでは素人の私には無理ですよ。町のお店と行政との温度差は大きい。お手本を見せてほしい」

 と直子さんは不満をこぼす。冊子には、ムスリムに対応するためには専用の厨房、調理器具や食材を使うとあるが、小さな飲食店でそこまでするのは難しい。

 昇龍道ルートを高山線で北上し、富山駅の5駅前にある越中八尾には、外国人に人気の宿がある。着物姿で迎えてくれた原井紗友里さん(30)が営む土蔵造りの宿「越中八尾ベースOYATSU」は、古民家を再生したものだ。越中八尾は昔ながらの町家が並び、9月に行われる「おわら風の盆」という祭りには26万人の観光客が訪れる情緒ある場所だ。宿にはカフェもあり、地元の住民が次々とコーヒーを飲みにやってくる。地元の人との交流を、外国人観光客にこそ体験してほしいという。

「皆があたりまえとする日常の中に、感動するポイントがある。この不便な田舎まで外国人がくるのは、日本人の暮らしを見たいからだと思う」(原井さん)

 三味線体験などのプログラムもあるが、先生は地元の人。この地域の人は9月の祭りに向けて毎日三味線の練習をしていて腕前はプロ級だ。

「自分で体験してもらって地元の人が弾くのを聞くと、この街の人のすごさがわかるじゃないですか」(同)

 原井さんは15年に「とやま観光未来創造塾」に入塾した際に、岐阜県飛騨市にある旅行会社「美(ちゅ)ら地球(ぼし)」で半年間研修をした。外国人向けに飛騨の里山をサイクリングするツアーを提供している会社で、毎年数千人の外国人旅行者を集めている。田園風景をサイクリングしながら、お米がどう作られ、どう食べられているかなど、日本の文化を英語で説明する。

 代表の山田拓さん(43)はこう言う。

「人がただ来ればいいという時代は終わりました。文化や資源に価値をつけてあげる。それが地方創生になるんだと思います」

 こういった地域固有の資源を活用した体験型観光が地域活性化につながることを期待する声は大きい。富山市にある「地域・観光マネジメント」では、外国人向けに握り寿司体験などのアクティビティの提供を行う。観光に関わる仕事をしたいというルーマニアからの留学生、ホモコシ アンヌ=マリさん(24)にもアイデアを出してもらいながらモニターツアーを行い、外国人が富山市のどこに興味があるのかを探っている。

「神社やお寺を1時間半くらいかけてじっくりみて日本の宗教を発見するツアーも企画しました。茶室では日本のティータイムを体験してもらう予定です」(ホモコシ アンヌ=マリさん)

 外国人が殺到する第二のゴールデンルートでは、日本を味わえる体験や交流が観光資源になっている。(編集部・柳堀栄子、ライター・守田直樹)

AERA 2018年2月19日号より抜粋