「当社の社員は13人。少子高齢化で人材が枯渇するなか、今いる人たちにどう働いてもらうかを考えなければならない。大手に比べ新規採用に苦労する中小企業の課題でもあります」

 東京都は昨年6月からハローワークから紹介を受けたがん患者を採用した場合、企業に1人当たり60万円(週所定労働時間20時間以上)の採用奨励金も支給している。

 こうした取り組みを行う企業や自治体が増えれば、社員も安心して働き続けることができる。ただ、そうした企業は一部に過ぎず、がん患者を受け入れる空気はまだ不十分だ。

 日本対がん協会の「がんと就労 電話相談」を担当する社会保険労務士の近藤明美さんはこんな指摘をする。

「がんを会社に話したあと、解雇や異動、賃金カットなどに遭う例はまだ少なからずあるが、退職する一番の理由は心理的なものが大きい。職場に迷惑をかけたくないと、会社の制度も調べずに辞めてしまう人も多い」

 日本テレビ記者で、マギーズ東京(東京都江東区)共同代表の鈴木美穂さん(34)は、入社3年目の24歳のとき乳がんと診断された。

「休職期間中に二度と仕事に戻れないと思い、会社に『辞めます』と伝えた。そのときに『休職の制度があるから』と言ってくれた上司には感謝しています。あのとき辞めなくて良かった」

 当時、乳がんの女性の闘病生活を描いた「余命1ケ月の花嫁」がブームとなり、そこに自身を重ね合わせて将来に絶望していた。マンション6階の自宅ベランダから飛び降りようとして、両親や妹に止められたこともある。その後の人生を考える余裕なんてなかった。

 そんな体験もあり、がん患者がリラックスして話ができる環境をつくろうと16年に誕生したのがマギーズ東京だ。広々とした空間で、看護師などの専門家ががんに関するどんな相談にも対応している。開所1年で7千人を超える利用者があった。鈴木さんはこう話す。

「がんになったことはもちろん、がんの影響を受ける人生をどう考えるか。そのためには、ほっと一息ついて話ができる場所が必要。混乱していてもいい。一人じゃないと伝えたい」

(編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年2月12日号より抜粋