旧暦の10月10日、稲佐の浜で営まれる出雲大社の「神迎神事」。浜で篝火をたいて神職が神々を迎え、出雲大社へと向かう(撮影/写真家・稲田美織)
旧暦の10月10日、稲佐の浜で営まれる出雲大社の「神迎神事」。浜で篝火をたいて神職が神々を迎え、出雲大社へと向かう(撮影/写真家・稲田美織)
60年ぶりとなる「平成の大遷宮」が行われ、本殿は美しく生まれ変わった(撮影/写真家・稲田美織)
60年ぶりとなる「平成の大遷宮」が行われ、本殿は美しく生まれ変わった(撮影/写真家・稲田美織)
神々の国・出雲の象徴であるかのようにそそり立つ出雲大社。八雲山(やくもやま)を背にした神域は、厳粛な空気が流れる(撮影/写真家・稲田美織)
神々の国・出雲の象徴であるかのようにそそり立つ出雲大社。八雲山(やくもやま)を背にした神域は、厳粛な空気が流れる(撮影/写真家・稲田美織)

「神々のふるさと」出雲。日本人にとって神さまとは何か。全国の神々が集う、旧暦10月「神在月」の出雲を訪ねた。

【「平成の大遷宮」が行われ、本殿が美しく生まれ変わった出雲大社】

 掃き清められた砂浜には篝火(かがりび)がゆらめき、白装束の神職たちが祭壇に向かって厳かに祝詞(のりと)を上げた。

「五感が研ぎ澄まされていくような感覚でした」

 一心に手を合わせていた松下あいさん(42)は、満面の笑みを浮かべた。宮崎から新幹線と在来線を乗り継いで1人で訪れた。

 旧暦10月10日にあたる2017年11月27日の夜、全国から神々を迎える出雲大社(島根県出雲市)の「神迎(かみむかえ)神事」が、出雲大社から西に約1キロの稲佐の浜で営まれた。

「神々のふるさと」。島根県出雲地方はそう呼ばれる。旧暦の10月は全国的には「神無月(かんなづき)」だが、出雲では「神在月(かみありづき)」と呼ぶ。その中核にある出雲大社では、旧暦10月10日から1週間、八百万(やおよろず)の神々を迎える「神在祭(かみありさい)」が行われる。その間、神々は出雲大社境内にある十九社(じゅうくしゃ)に宿泊し、これから1年間の縁結びや農作物の豊凶などを協議するといわれている。

 山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)は仏教だが、神道には八百万の神がいる。日本人は古来、森羅万象に神々を感じ、祈ってきた。キリスト教などの一神教と違い、至る所に多数の「神さま」がいるのが日本の特徴だ。日本人にとって神さまとはどんな存在なのか。

 冒頭で紹介した松下さんが出雲を訪れたのは2度目。17年3月に初めて出雲を訪れたが、そのとき地元のお年寄りから神在祭のことを聞き、どうしても神事を見たくなった。特定の宗教は信仰していないが、普段から神さまを信じ、元気がほしい時など地元の神社を訪れお祈りする。出雲には神在祭の1週間滞在し、こう思った。

「出雲という名前の通り、雲が山の中腹にかかっている景色や自然、光の感じが神々しく、今までで一番神さまの存在を感じました」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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