レセプションには日中両国のタレントも駆けつけ、会場前には黒山の人だかりができた(撮影/編集部・片桐圭子)
レセプションには日中両国のタレントも駆けつけ、会場前には黒山の人だかりができた(撮影/編集部・片桐圭子)
観る人は360度を蜷川実花の写真に囲まれることになる(撮影/編集部・片桐圭子)
観る人は360度を蜷川実花の写真に囲まれることになる(撮影/編集部・片桐圭子)

 蜷川実花が中国・上海で、自身最大規模だという個展を開催中だ。本誌の表紙になった作品も含む展示には、週末ともなると上海の若者たちが詰めかける。蜷川はこの個展の先に何を見ているのか。

【360度を蜷川実花の写真に囲まれる 展示会の様子はこちら】

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「この5年間、ずっと機会を狙っていたんです」

 蜷川実花はそう話す。

「狙っていた」のは中国大陸での大規模な個展。それが今年、現実のものになった。

 上海の中心部・新天地にほど近いLAFAYETTE ART&DESIGN CENTER(拉法耶芸術設計中心)で、自身最大規模の個展「蜷川実花展」を開催中だ。花、金魚、日本を中心にアジアのスターの肖像など、10のシリーズから映像作品を含む1千点以上が展示されている。

 なぜいま、中国だったのか。

「日本でのクリエーションは、どんどん繊細なほうに向かっています。一方で中国は、すごくダイナミック。『もっと面白いことするぞ』というエネルギーに満ちている。私のアイデアはいつも、まったくベクトルの違う世界を行き来する中で生まれるんです」

 ヨーロッパでもアメリカでも作品を発表したい。だが、常に引き算を求められる洗練された世界とは違う「未開の面白さ」が、中国にはあるという。

「西洋のルールには、必ずしも乗らなくていい場所なんです。足し算をどんどん繰り返せる中国は、私にはすごく向いていると思う。それに『アジアのNo.1』になったらきっと、欧米からも声がかかると思います」

 実際、蜷川流の足し算を重ねた展示には、「圧」さえ感じさせるパワーがある。歴史的建造物をリノベーションしたという会場に足を踏み入れると、まず迎えてくれるのは桜。床にも壁にも隙間などなく、写真の展示というより「壁紙」のようだ。

 別のフロアでは色も形も大きさもさまざまな花たちが鏡の壁を埋め尽くし、花々に覆われた中にまた、花々に覆われた小部屋がある。まるで、蜷川の写真の中に入り込んだような感覚。蜷川ファンなら気分が上がるどころではない、体温まで上がってしまいそうな濃厚さだ。

 ポートレートを展示する階には、来場者が自由に撮影できる花のセット。最上階には、天井から降り注ぐように展示された蜷川カラーの和傘やちょうちん、真っ赤なくちびるや花々、動物たちに囲まれてお茶が飲めるカフェも設けられている。

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