ひとつは、白鵬らモンゴルの先輩力士が話し掛けている最中に貴ノ岩がスマートフォンをいじった“所作”に注目したもの。もうひとつは、別の場所で口にした言葉を問題視され、問い詰められた貴ノ岩が「ガチンコ」という“言葉”を口にし、日馬富士がキレたというものだ。

 ガチンコは八百長の対立概念で真剣勝負を意味する。今回の事件で日本相撲協会への協力を拒否して波紋を広げた貴乃花親方がその代表格で、その薫陶を受けたのが弟子の貴ノ岩である。

 角界を揺るがした野球賭博事件で明らかになった2011年の八百長は相撲協会にとって最大のタブーだ。いちいち報道されないが、白鵬を頂点とするモンゴル人力士グループには、その強さゆえ「勝ち星を調整しているのではないか」という疑惑の目が向けられてきた。それが暴行の背景にあると伝えるメディアもある。

「八百長の真偽とは別に、異国の地で、しかも、良い意味でも悪い意味でも日本の古い体質が残る角界で生きる外国人力士が同胞同士で助け合っていこうとするのは自然だし、彼らからすれば、生き残っていくには勝つしかないのが現実。勝利至上主義ですよ。一方で、言葉の壁があるから、日本生まれの親方衆が彼らに相撲の神髄を伝えるのは非常に難しい。特に、単なるスポーツではなく神事であり、ただ勝てばいいのではなく、どう勝つかが問われるという部分はね」(ベテラン相撲記者)

 時として横綱の品格を汚すモンゴル勢の振る舞いに、相撲ファンはあぜんとする。日本相撲界に長年貢献してくれながら、モンゴル人力士との壁をつい感じてしまう。そんな複雑な感情も、今回の事件が映している。(ジャーナリスト・岸本貞司)

AERA 2017年12月11日号