半藤:言うのはタダだから言ってしまうんですが、今回オープンした漱石山房記念館の1階に映像のコーナーがあるんです。それを見ながら、宮崎先生は好きな漱石の短編なら記念館用に作ってくれるんじゃないか、と思っておりまして(笑)。

宮崎:いやいや(笑)。

半藤:宮崎さんがお好きな『草枕』で、主人公の洋画家が峠の茶屋で「おい」と声をかける場面はどうですか。奥からおばあさんが出てきて。

宮崎:ああ、いいですね、あの場面は。つまらないことにひっかかるんですけど、あのおばあさんの家にある駄菓子の箱に鶏がふんをする場面がありますけど、そもそも鶏が駄菓子を食わないのが不思議なんです。あと、舟で停車場(ステーション)に行く途中に、主人公が宿泊する宿の「若い奥様」那美さんが山へ向かって手をあげるシーンは一番きれいですね。

半藤:そのシーンもいいですね。汽車ぽっぽが出ていく。

宮崎:車掌が、ぴしゃりぴしゃりと車内のドアを閉めて走って来るでしょう。あれは、コンパートメントに分かれていた車両だったんでしょうね。その戸をぴしゃぴしゃと閉めたと、勝手に思っているんですけど。

半藤 正しいんじゃないでしょうかねえ。そういう、宮崎駿作の『草枕』のアニメーションを、ほんの5分、せいぜい10分ほどで作ってもらえないかなと。

宮崎:いやいや(笑)。でも僕は『草枕』が大好きで、飛行機に乗るときは必ずこれを持って行きます。何度読んでもおもしろい。だけど、難しい本ですね。難しいところは覚えてないんですよ。注ばっかり読まないといけないから、そういうところは飛ばして読みますが、漱石の漢文の素養は本当にすごい。

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