椿さんは、全長50メートルに及ぶバッタの立体作品などで知られる。若手育成への意識が強いのは、中学・高校の美術教師だった経験とも関係がありそうだ(撮影/楠本涼)
椿さんは、全長50メートルに及ぶバッタの立体作品などで知られる。若手育成への意識が強いのは、中学・高校の美術教師だった経験とも関係がありそうだ(撮影/楠本涼)
京都・嵐山に2015年にオープンした「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」の部屋にしつらえられている品川亮さんの襖絵(写真:椿昇さん提供)
京都・嵐山に2015年にオープンした「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」の部屋にしつらえられている品川亮さんの襖絵(写真:椿昇さん提供)
退蔵院方丈襖絵プロジェクトの絵師・村林由貴さんは、2011年4月から妙心寺で生活をし、600年の歴史を誇る退蔵院の本堂の襖絵64面の完成を目指している(撮影/吉田亮人)
退蔵院方丈襖絵プロジェクトの絵師・村林由貴さんは、2011年4月から妙心寺で生活をし、600年の歴史を誇る退蔵院の本堂の襖絵64面の完成を目指している(撮影/吉田亮人)

「若いアーティストを育て、作品を社会に浸透させるシステムが必要だ」。現代美術家の椿昇さんが、教授を務める京都造形芸術大学を舞台に新たな試みを始めている。

「アートって、(手間はかかるが益がある)不便益そのものですよね。“キングオブ不便益”というか」。そう言って、学生が作った人型模型作品を両腕に抱えて笑う椿昇さんは、日本のアートのあり方に対して大きな問題意識を持ってきた。

「携わる人同士が互いにつながっていない。大学は、技術は教えるけれど、作品をどう売るかは教えない。ギャラリーも教育機関と連携して若手を育てようという意識はない。それゆえ若いアーティストが育たないし、アートが社会に浸透していかないのです」

 と椿さんは苦言を呈する。

 その状況を改善すべく3年ほど前から椿さんが始めたのが「アルトテック(ARTOTHEQUE)」という試みだ。

 京都を中心とした芸術大学の学生や卒業生の中から選ばれた登録アーティストの作品を、積極的にギャラリーや買い手に紹介し、彼らが自立できる道筋を作るというものだ。力を認められた登録アーティストは現在20人ほど。伝統的な日本絵画の技法に現代の感性を取り入れた障壁画などを描く品川亮さんの作品は、各方面で高い評価を得ていて、すでに2年半先まで作品制作の予約が入っているという。細密な油絵を描く谷亜莉沙さんは、東京の著名なギャラリーでの個展が決まり、今後、世界で注目されていくと見られている。アルトテックの仕組みができたことで、若い作家のモチベーションが飛躍的に上がり、創作の力そのものも勢いが出てきたという。椿さんは話す。

「現在活躍している子たちに共通するのは、アーティストとしてやっていくという強い意志と覚悟です。そういう人たちは、社会へのつながりさえあれば、確実に活躍できる。その“橋”を提供するのが自分たちの役割だと考えています」

 もう一つ、椿さんが大学で力を入れているのが「卒業制作展のアートフェア化」だ。

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