『西郷どん!』には、歴史に強くない読者にも人間ドラマとして読ませる力がある。特徴的なのが女性たちの魅力だ。

「西郷ものといえば司馬遼太郎先生の『翔ぶが如く』があり、仰ぎ見る存在です。しかし私なりに、先生がお書きになっていない部分、例えば妻の愛加那の描き方などは力を込めたつもりです。西郷は、家は超貧乏、妻ともうまくいかず、友人がどんどん江戸詰めになって旅立つのを、元気で暮らせ、と見送る側の人間として出発しました。高卒で働く地元の子が、東京の大学に行く友人を見送る感じ。一生懸命農民のために働いた人であり、それをちゃんと見ていた人がいて、ようやく物事が動き始めた。私はそのことを書きたかったんだと思います」

 大河ドラマの脚本は、これまで何度も林作品を手がけてきた中園ミホさん。原作とドラマと、私たちはあまりに有名な人物の新たな側面を目の当たりにする機会に恵まれたといえそうだ。(ライター・北條一浩)

AERA 2017年11月20日号