ここまで系統だった演目論が読めるのは、本書が初めて。読んでいると、落語の大きな流れをリアルに感じることができるのだ。

「古典落語という造語が使われるようになったのは、1954年以降の高度経済成長期です。日本人の生活様式が大きく変わり、昔ながらの落語の世界が古めかしくなるなかで、あえて『古典』と称揚することで、落語は再び息を吹き返した。志ん朝、談志、(柳家)小三治といった人たちがバージョンアップしてくれたおかげです」

 今も広瀬さんは、ほぼ毎日、寄席や落語会に足を運んで生の落語を聞いている。

「伝承と創作の歴史は、日々、繰り返されています。これからも優れた演者たちが、彼らの魂を個々の演目に吹き込み、その時代にふさわしい『生きている噺』が生まれる。落語は古典芸能ではなく、いつまでも現代のエンターテインメントであり続けるでしょう」

 本書のタイトルどおり、「噺は生きている」。そして噺=落語に命を吹き込むのは、落語家とそこで噺を聴く客なのだ。(ライター・矢内裕子)

AERA 2017年10月23日号