ひろせ・かずお◆1960年生まれ。音楽誌「BURRN!」編集長。落語評論家。学生時代から寄席通いを続け、ほぼ毎日、生の高座に接している。著書に『この落語家を聴け!』『噺家のはなし』『落語評論はなぜ役に立たないのか』など(撮影/山本倫子)
ひろせ・かずお◆1960年生まれ。音楽誌「BURRN!」編集長。落語評論家。学生時代から寄席通いを続け、ほぼ毎日、生の高座に接している。著書に『この落語家を聴け!』『噺家のはなし』『落語評論はなぜ役に立たないのか』など(撮影/山本倫子)

『この落語家を聴け!』『現代落語の基礎知識』などの著書で、落語評論を一新した広瀬和生さん。「今こそ落語の黄金時代」と言い、今日、聴きにいける同時代の落語家について積極的に語る姿勢で、現在の落語人気を牽引してきた。

 そんな広瀬さんの新刊『噺は生きている』の主役は「芝浜」、「富久」、「紺屋高尾」と「幾代」、「文七元結」という人情噺の名作たちだ。

「これまでも同じ噺について、(立川)談志師匠はこう、(古今亭)志ん朝師匠はこうしている──と別個に書いてはいましたが、一つの噺にどんなバリエーションがあるのか、系統立てて、考えてみたいと思いました」

 古典芸能とはいえ、落語は日々、変化している。同じ噺でも演者によってやり方が違うし、同じ演者の噺でも変化していく。噺の「核」を捉え、先人が積み上げてきた芸の上に、時代の空気を取り入れて自分の芸をつくっていくのが、才能ある落語家だからだ。

 噺が受け継がれてきた歴史、落語家の工夫を広瀬さんは「伝承と創作」と呼び、丹念に事実を拾っていく。

「高座音源が残っている昭和の名人の時代を起点とし、時間軸を現代へと辿りながら、歴代の名演を聴き比べました。同時代に混在する演じ方をいわば2次元で検証しながら、時間軸という3次元を見ています」

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