京都5区には、選挙チラシに「憲法9条、前文の平和主義は戦後日本の魂であり宝。これを堅持し、その上で、自衛隊は別条で明記する」と盛り込んだ保守候補もいる。前京丹後市長で無所属の中山泰氏(57)だ。本誌の取材に、こう語った。

「選挙は超党派で戦うが、自民党員として言いたいことは言う。自民党にはもともとタカ派からハト派までいるじゃないですか。9条も自衛隊も尊きもの。だから両方大事にしたいのです」

 憲法9条の行方は、今や「保守」の多様さと奥行きにかかっているのか。自民党は9条改正以外に、有事などを想定した緊急事態条項の新設も改憲公約に盛り込んだ。安全保障政策への影響について、元内閣官房副長官補の柳澤協二氏はこう話す。

「改憲は安倍首相個人の政治目的であって、その先にどのような政策目的があるのかは一向に見えません。ですから、改憲公約と安全保障政策を直接結びつけて展望するのは困難です」

 有事対応を前提にした改憲が実現した場合、戦争のリスクも高まることは否めない。それを止めるのは、本能的に戦争を忌避する「世論の力」だと強調する柳澤氏。こんな懸念も示す。

「今、多くの国民が北朝鮮の核・ミサイル開発に不安を覚えているのも事実でしょう。人間は恐怖にかられると、攻撃してしまえという、単純な答えになびきやすいのです」

■危険なパラドックス

 米国による世界秩序の維持にほころびが見える中、米朝が和解し、核保有した北朝鮮が国際社会で認知されるのは日本政府にとって最悪のシナリオだ。こうした危機意識を背景に、北朝鮮の核施設やミサイル基地を先制攻撃すべきだという「敵基地攻撃論」や「核保有論」も世論の一部にくすぶる。柳澤氏はこの流れに警鐘を鳴らす。

「唯一の被爆国の日本が核保有に動けば、国際的な規律を維持できなくなって核は制御不能な形で拡散し、テロリストにも渡るでしょう。恐怖にかられ力には力でという単純な方向に解を見いだそうとすると、かえって危険になるパラドックスに陥る」

 さらに、こう続けた。

「北朝鮮のいくつかのミサイル発射台を破壊したところで反撃の口実を与えてしまうだけ。ミサイル防衛システムは完璧ではなく、何発かのミサイルが日本国土に着弾するリスクを国民は受忍できないでしょう」

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