もちろん、すべて計算どおりにいくはずもない。嵐のような野党再編は、首相には誤算だったろう。ただ、民進党の相当部分を糾合して小池百合子・東京都知事が立ち上げた希望の党は、憲法改正を真正面から掲げる改憲政党として出帆した。民進党からの合流者にも、改憲賛成の踏み絵を踏ませた。衆院選後の政界は、見渡す限り「改憲勢力」に覆われてしまいかねない。与党の獲得議席数が政権の命運を握っているとはいえ、改憲を目指す首相にとっては歓迎すべき面もあろう。

 とすれば、衆院選の核心的争点は、安倍「1強」政権への審判であると同時に、この政権下での改憲の是非にもあると考えねばならない。

 振り返ってみれば、首相は政権発足時に「戦後レジームからの脱却」をスローガンに掲げていた。最近はすっかり口にしなくなったが、首相やその熱心な支持者が考える「戦後レジーム」──それは戦後日本が営々と積み上げてきた矜持(きょうじ)でもあるわけだが──は、実際に次々と葬り去られた。

 第1次政権では、教育基本法が改正された。これは日本会議が「改憲の前哨戦」(同会議会長だった三好達・元最高裁長官)と位置づけ、「愛国心」明記へ政権を全面支援したほどの動きだった。第2次政権での所業は、あらためて記すまでもない。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を容認する安保関連法制、そして「共謀罪」法などが相次いで強行採決された。武器輸出三原則が事実上破棄されたことなども、すべて同じ地平上にある「戦後の破壊」である。

 そして首相やその熱心な支援者たちは、現憲法を「戦後レジーム」の究極的存在と見なし、現政権を改憲の「絶好のチャンス」と捉えている。たとえば衛藤晟一・参院議員は14年10月、日本会議が主導して改憲を目指す運動体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の設立総会でこう断言している。

「安倍内閣は憲法改正のために成立した」

 首相の側近議員に数えられる衛藤氏は、もともと新興宗教団体・生長の家の活動家であり、日本会議の運動に熱心に取り組んできた。他方、かつて現憲法を「みっともない憲法ですよ、はっきり言って」(12年12月、ネット番組で)と言い放った首相も、同会の集会に異例のビデオメッセージを寄せ、こうエールを送っている。

「憲法改正に向けて、ともに歩みを進めてまいりましょう!」

(ジャーナリスト・青木理)

AERA 2017年10月23日号より抜粋