テーマは「恋愛」「仕事」「いじめ」……と、どれも思春期の娘と語り合うにはハードルが高い話題。できるだけ聞き役になり、説教めいたことも言わないよう心がけた。

 あえて「勉強しないで高校中退も悪くないんじゃないの?」というような、勉強や仕事の在り方を問うような、世間の常識とは異なる質問もし、長女の興味を引く問いかけを心掛けた。

 回を重ねるごとに徐々に娘も心を開き、本音を話してくれるように。父娘の「対談」は3カ月間にも及んだ。対談の中で、長女の考え方にも変化が表れた。人生の意味について聞いた時のこと。深い答えは期待していなかった中山さんの予想に反し、「次の世代や未来に貢献するような仕事をしたい」と、およそ中学生とは思えないような回答が返ってきた。

「『この対談を通じてそう考えるようになった』と言ってくれて。自分の考え方を学んでくれたんだ、と嬉しくなりました」

 初対談から約4年が経ち、長女は高校2年生に。残念ながら「キモい」と言われてしまうことはあるようだが、当時じっくり話をしたことで、今でも「何かあったらお父さんに相談できる」と言ってもらえるようになった。

 長女の変化はまだある。学校の先生を目指しているが、小学校で放課後教育のボランティアもするように。自分自身で地元の市役所に問い合わせて見つけたという。ボランティア先を探す長女に「市役所に聞けば」と助言したのは中山さんだが、実現する行動力に驚いた。

「仕事で培った情報は、子どもにすべて還元し、問題解決のヒントとして提示したい。そういうところは自分の出番。大事なのは、子どもの自主性は尊重しつつ、手助けはする、いやらしくない距離感だと思いました」

(編集部・市岡ひかり

AERA 2017年9月18日号