包括契約とは、JASRACが「社交場」と規定するライブハウスなどから月額固定の「包括使用料」を徴収する運用のこと。演奏曲が何かに関係なく店から一定額を徴収し、JASRACが全国の契約店舗から無作為抽出した調査対象店でサンプリングした演奏曲をもとに、該当曲の著作者に分配している。カラオケスナックで客が歌ったことを店が歌ったこととみなすという1988年最高裁判決、いわゆる「カラオケ法理」を当てはめたものだ。

 一方これが「コンサートホール」なら徴収と分配がクリアな運用になる。演奏者が曲目をJASRACに許諾申請(オンライン含む)し、それに基づいて支払った使用料が著作者に分配される仕組みだ。しかしこれは、ライブハウスには適用されない。JASRACは演奏者からの使用許諾は受けつけず、実際の演奏曲の著作者に分配されるかどうかは全く未知だ。ゼロかもしれないし、サンプルの偏りによっては多めの分配にあずかるかもしれない。

●真の権利者に分配なし

 末吉さんは、2000年からの10年間、全国のライブハウスで約200回のライブを開き、自分が作曲した楽曲を演奏した。だがそれに対する分配金は1円もなく、サンプリング店の公開を求めても全く応じてくれなかったという。末吉さんはこう続けた。

「真の権利者に分配しない不透明な運用です。楽曲検索システムが確立されオンライン申請も容易な現代、ライブハウスにだけ前近代的な運用を強いる正当性がどこにあるのか。しかも、店舗経営者も利用主体となるという理由で出演者からの利用許諾を拒んではならないという大阪高裁の判例もある」

 JASRACの徴収額は横ばいが続き、16年度は1118億円超。このうちサンプリング分配方式は1.98%、金額にすると約22億円相当だ。しかし、この小さなパイを巡る取り立ては熾烈なものがある。音楽愛好家との溝は深まるばかりだ。

 JASRACは今年6月、「BGMを利用していながら、著作権の手続きをしていない美容室など178事業者、352店舗に対し、簡易裁判所に民事調停を申し立てました」と発表。続いて7月には2店の経営者に対し、全国初の著作権侵害行為の差し止めと損害賠償を求めて提訴したことを発表した。そのうちの一人、札幌市中央区で理容室「Elfina」を営む村上聡さん(48)が取材に応じた。

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