「05年の開店以来ずっと著作権が切れたクラシックジャズをBGMで流していました。2年前にJASRACに民事調停を申し立てられた際、その旨を説明すると、うちには支払い義務がなく、先方にも請求権がないという結論に達し、平和的に終わりました。『前例がない』という理由で調停の取り下げはできないということでしたが、催告状が来ても無視していいとJASRAC側から言われていました」

●客を装った調査員

 だがこれで落着、とはいかなかった。突然の提訴。届いた訴状には、3月ごろから来るようになった男性客2人の名前があり、BGM使用の差し止めと、過去3年間の支払いに遅延金を足した計4万6656円などを支払うよう求めていたのだ。

「客を装った調査員が来た日に1日だけ、私物のiPodを繋いでいたことがあって、それがダメなのはこちらのミスだから仕方ありません。しかしそれ以外は著作権フリーの曲を使っています。著作権があるものとないものの扱いが一緒なら、著作権の意義もなくなる」

 村上さんは思う。最近は音楽をかける店が減り、スーパーもBGMをかけなくなった。街を音楽で彩った市井の人々を法廷に引っ張り出しては「著作権料」を細かに切り取るJASRACは、いったい何を守ろうとしているのだろうか、と。

 新潟市中央区のジャズ喫茶「SWAN」も同じ思いだ。開店は東京五輪があった1964年。現在は初代の和田徳治さんから引き継いだ息子の孝夫さん(71)と和子さん(67)夫婦が細々と続けている。座席数は32と小ぶりで、休日は奥のスペースで生演奏もあるが、常連客相手がもっぱらで年間収益は20万円前後と「ギリギリの経営」だ。

 苦しくなり始めた90年代から、孝夫さんはトラックの運転手をしたり、造船所で船内清掃のアルバイトをしたりして生計の足しにしてきた。その最中、忘れもしない03年春に、JASRACから警告書が郵送されてきた。過去10年分の使用料約550万円の清算と許諾契約の締結を迫る内容だった。

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