「とても払えないので、実態に見合った額にしてもらおうと確定申告書も用意しましたが、『収入は関係ない』と目を通してもくれなかった」(和子さん)

●音楽教室からも徴収

 同年11月には楽器や音響機器などの使用禁止を求める仮処分を新潟地裁に申し立てられ、04年3月に使用料約280万円と月額使用料1万3440円を払う条件で和解が成立した。ただ200万円ほどは支払ったものの、数年前からは滞りがちとなり、店の経営にも夫婦の年金を充てている状況だ。

 和田夫妻はため息まじりにこう呟いた。

「もう年も取ったし……。支払いもキツい。ピアノや音響機器を差し押さえてもらいたいぐらい。これからお店をやりたい人はもっとかわいそう。音楽に特化しようと大きなスピーカーを入れたら、それだけ高い使用料を取られてしまう。今のやり方を見ていると、音楽を広めるよりむしろ使われないようにしているとしか思えない」

 JASRACは民間の音楽教室約9千カ所からも受講料収入の2.5%を徴収する方針を発表し、反発した音楽教室は「音楽教室を守る会」を結成、6月に音楽教室でのレッスンに徴収権は及ばないとする「請求権不存在確認」を東京地裁に提訴した。JASRAC側は「法的な検討は尽くしており、百%の自信がある」と強気の姿勢を崩さない。居丈高でピント外れ。「著作権の番人」に対するネットやSNSの反応は、おおむねそんなところだ。反論も自負も誇りもあるだろう。JASRACに、末吉さんの行動や、他の法的措置についての事実確認も兼ねた取材の申し込みを何度も重ねたが、文書での回答も含めて断られた。国内市場シェア95%超を誇る音楽著作権管理の巨人の歩んでいく先が、見えない。

(編集部・大平誠、山口亮子)

AERA 2017年9月4日