ヨシタケ:実際の赤ちゃんではありえないポーズや線もあるのですが、絵の場合、それでも不思議と通じるんですよね。

山崎:イラストもエピソードも「赤裸々」というより「一般化」している印象を受けました。

ヨシタケ:エッセーは連載をまとめたものですが、その連載を始めるときにまず決めたのは、わが子の面白エピソードやゴタゴタ話をそのまま書くのはやめようということでした。そういう話はネット上に大量にあって、無料で読めます。それより、自分がどう思い、読者に何を提案できるかを考えました。

●ツライという声ばかり

山崎:かなり率直に書いてらっしゃいますよね。「子どもとは相性がある」「ほかの子と同じであってほしい」なんて、なかなか口に出して言えません。

ヨシタケ:文章だけだとしたら、きっと反論がいっぱい来るでしょうね。イラストエッセーの場合、多少きわどいことを言っても、横にかわいい赤ちゃんの絵があるとわりと許してもらえる。その点、絵は便利だなと思います。逆に文章だけで伝えるのは大変なんじゃないですか?

山崎:読者の数だけ小説があるので、読者の感じ方や考え方に作家は反論しません。誤解されて読まれても、渡したテキストは、もう読者のものですから。誤解や批判も肯定したいです。

ヨシタケ:実は長男が生まれたときに、別の編集者から子育てエッセーの依頼がありました。でも、そのときはお断りしたんです。育児があまりにも大変で、とても書けるような状況ではなかった。

山崎:それは時間的にですか?それとも精神的に?

ヨシタケ:両方です。妻が出産後、体調を崩し、体に痛みを感じるようになった。手が痛くて子どもの抱っこもできなくなり、夜中に妻か息子の泣き声で目が覚めるような状態でした。

山崎:おつらかったですね。

ヨシタケ:おまけに長男は夜、寝ない子できつかった。人は寝不足になると心の余裕を失いますね。こんなにも人格が崩壊するものなのかと思いました。

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