山崎:ヨシタケさんの本のなかに「大人の世界」という章があって。「人の数だけ『普通』があり、『現実』があり、『かなわなかった希望』がある」「そんな人々がお互いに気をつかいながら、共通点を探しながら、それでも楽しくやっていこうとする。大人ってえらいなあ、すごいなあ、といつも思います」と。

ヨシタケ:子育てを通じてわかったのは、家庭によって抱えている事情はさまざまで、赤ちゃんがいること以外に共有できるものはないということ。加えて、子どもが欲しくても授からない夫婦が実にたくさんいることでした。子どもの話題には、すごく気を使わないといけない。

山崎:本当にそうですね。

ヨシタケ:社会には、異なる事情を抱えた人が隣り合わせでいて、互いにそれをわかったうえで仲良くしていこうとするのが「大人の世界」。それがわかったときに、大人ってすごいなと思いました。

山崎:私も「もっと大人になりたいな」と思いました。子どものいない人の話も聞きたいし、気を使いつつ自分の話もしたい。

ヨシタケ:そうですよね。

山崎:『母ではなくて、親になる』も、子どもがいない方、育児に興味がない方にも楽しんでもらえる読み物にしたい、という目標があります。

ヨシタケ:そう書いてありましたね。

山崎:似たような人生を歩んでいる者同士でしかコミュニケーションを取れないなんて、寂しい。成熟した社会にはほど遠い。

ヨシタケ:子どものいない人とも子どもの話ができる社会になることが大事ですよね。異なる者同士が思いやりをもって、同じほうを向いて歩いていける。それが大人の一番いいところですから。

(構成/編集部・石田かおる)

AERA 2017年8月28日号