「普通は、唄の歌詞に1番があり、2番、3番……ってなりますよね。ところが奄美の唄は2番や3番がなくてすべての詞が1番なんです。そのことを考えながら作ってみました。全部が1番っていいでしょ?」

 そして手。奄美の島唄が、朝崎さんの手から満島さんの手に流れていったように、この映画に出演している生徒たち(すべて地元の島の子たち)は、休憩時間になっても、ずっと満島さんの手を握りたがった。

「どの子を見ても自分の子ども時代を思い出します。誰が何をしても『ああ、それ知ってる』と思っていた。けっして話しかけてこなくて、それでもずっとこっちを見ている子なんかもいて、『ああ、それも知ってるから!』って(笑)」

 朔中尉、つまり島尾敏雄を演じた相手役の永山絢斗さんとの呼吸はどうだったのだろう。

「トエが亡くなった母の喪服を着て白塗りして紅引いて、胸に短刀を忍ばせて海を渡り『生きてください』と伝えにやって来る、長い場面があります。7テイク目まで、セリフが最後までたどりつかなかったんです。どちらかが止まってしまう。敏雄さんとミホさんの恋の描写は、時代のこともあるでしょうが、どこかお芝居がかったところがあります。それをリアルな感情だけでやろうとすると追いつけなくて。7テイク目に、ふと強烈な照明が目に入ってきて覚醒したみたいになって『あ、行けるかも』と思いました。何回やっても引き分けだった相撲を、ついに寄り切った感じ(笑)。全編通して、いい距離と呼吸でいられたと思います」

 公開が始まった今、満島さんは何を思うのだろう。

「『島が映っているかどうか』という言葉がありましたが、まちがいなく、この映画には島が映っていると思います。私は、途中のもの、ずっと動いているもの、永遠にわからないものが好きで。2時間半の中に、それもたっぷり詰まっています」

(ライター・北條一浩)

AERA 2017年8月7日号