「自分も含めて、日本人が過去に作った曲のなかにはモデルケースがないので、それで大丈夫なのか、ちゃんと意図通りにできているのか、ミックスが終わるまでわからなかったんです。安心材料がまったくないような状態で」

 でもできあがった曲を耳にすれば、モータウンに代表される60's~70'sソウルのエッセンスが星野源の音楽と溶け合い、現代のサウンドとして響くのを全身で感じとれる。

「その感じが伝わっていたら、すごくうれしいです。モータウン調の音を作ろうとした時、例えばヴィンテージエフェクトで似たものを使うとか、その年代の雰囲気を記号的に再現することはできるんです。でも今回は自分たちのバンドの、一番シンプルな楽器の使い方だけで、それが表現できないかなって」

 ツアーの真っただ中だったので、制作期間がたっぷりとあるわけではなかった。

「短い時間でしたけど、バンドやスタッフの結束力が『YELLOW DANCER』の時より断然いいので、やれました。やりきれました。でも楽な道は一歩も通ってないんだよって(笑)」

 新たなサウンドを目指し、試行錯誤しながらそこにたどりついた達成感を今、おそらく星野源は存分に味わっている。(ライター・門間雄介)

AERA 2017年8月14-21日号