「笑いが大政翼賛会ではいけない。やっぱり笑いは弱い者の味方であってほしいんです」

 背景には、スタッフや若手芸人がMCを務めるようなベテラン芸人だけを忖度して、視聴者の思いが置き去りになっている現状がある。ある制作会社のプロデューサー(47歳・男性)は、テレビ局やスポンサーから視聴率のプレッシャーが強まっているため、数字が見込める大物タレントの企画しか通りづらくなったと嘆く。

「キャスティングが保守的なぶん、企画は炎上狙いというのが成功パターンになっています。大御所はちょっとした発言でもネットニュースが取り上げてくれるのでPR効果も抜群。ギャラは高くても宣伝費をかけずに済むし、結果的にはトントンです」

 収録当日、ベテラン芸人の楽屋には事前にリサーチした好みの弁当が何種類も用意され、楽屋前には「挨拶待ち」の若手芸人が列をなす。そして本番では、ベテランを気持ちよくさせ場を盛り上げる「営業」トークができる若手にしか「次」はない。

 山本七平は『「空気」の研究』の中で、空気の支配に抵抗するには水を差すという方法があると述べているが、田中さんは、それこそ笑いの役割だという。

「政治的なことに言及しなくとも、皆が同じ空気の中にいるときハッと我に立ち返るような瞬間を笑いはつくれる。異端な存在が生まれるよう多様性のある場を笑いの世界に確保することで、閉鎖的な空気を壊してほしいですね」(田中さん)

(編集部・竹下郁子)

AERA 2017年8月14-21日号