山本七平は1977年刊行の『「空気」の研究』の中で、「『空気』とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である」と書いている。その後その妖怪は、どんどん存在感を大きくしている(撮影/今村拓馬)
山本七平は1977年刊行の『「空気」の研究』の中で、「『空気』とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である」と書いている。その後その妖怪は、どんどん存在感を大きくしている(撮影/今村拓馬)

 相次ぐ政権の不祥事、押し寄せるSNS圧。批判なき政治を目指す政治家に、笑えない芸人。怒る気力も失われ、何もかもが面倒くさい。この不機嫌と無気力は、いったいどこからやって来るのか。AERA(2017年8月14-21日号)では「日本の境界線」について特集。同調圧力やこの国を覆う不機嫌の正体について考える。

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 バラエティーはもちろん、近年は情報番組やワイドショーのコメンテーターとして発言し、世論に大きな影響を与えているお笑い芸人は、空気を読むプロである。彼らの空気を読む力が磨かれた背景を、ライターの九龍ジョーさんはこう見ている。

「82年に吉本興業の養成所・通称NSCが設立され、従来の師匠の教えが絶対という徒弟制度が崩れたことです。結果、教室やプライベートを通じた横のつながりで笑いのコードが共有されるようになったんです。それ以降の世代がテレビの中心になったことで、番組を通して、そうしたコードが世間にも発信されるようになりました」

 瞬時に自分の立ち位置を見極める身体性はテレビでは重宝されるが、一方で問題も起こる。

「ものごとの背景など文脈を踏まえた笑いは、排除されがちです。みな、反射神経は抜群なんですけど、それだけだとパターンも限られているから予定調和となり、制作サイドもそれでよしとしてしまう状況があります」(九龍さん)

 一方、ダウンタウンがブレークするきっかけとなった番組「4時ですよ~だ」を手掛けた、元毎日放送プロデューサーの田中文夫さんは、権力批判をする人たちを冷やかしたり茶化したりするような空気が蔓延するバラエティー界に疑問を呈す。

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