「松任谷正隆さんのオリジナルのアレンジが完璧で、15歳の時の自分の声もはっきりと耳に残っていて、大人の私はどう向き合っていいのかわからなくなってしまったんです。それで何年も歌えませんでした。25周年の時にプロデューサーの伊藤ゴローさんがスローなアレンジにしてくれて、また歌えるようになった。この10年では、もっとも回数を多く歌っています。今回はオリジナルに近いテイストでレコーディングしました」

 女優の仕事も順調だ。「紙の月」「三つの月」「運命に、似た恋」など、質の高いドラマに毎年出演し続けている。

「この3年は、音楽、女優、音楽、女優……と交互にお仕事をしてきました。おかげで、いつも新鮮な気持ちでいられます。前作『恋愛小説2』の後にドラマ『運命に、似た恋』の撮影を体験したことで、『音楽と私』は新しい私で臨めています」

 音楽と女優。常に両方をやってきたからこそ、35年のキャリアを重ねられたと感じている。

「一作品終えたら、立ち止まって振り返る。そういう時間を持つことができました。いつも自分の変化を楽しんでいます」
 だから、リスナー側も原田の変化を楽しめたのかもしれない。

「そうだと嬉しいですね。20年前に初めて『ロマンス』を歌ったとき、新しいファンが増えたんです。それまで私の映画やドラマを観たことがなかった方々が、あの曲を通じて興味を持って下さった。音楽を続けてきて本当に良かったと思えた瞬間でした。もしかしたら、歌手と女優、私のイメージは人によって違うかもしれません。でも今ではそれも良いことだと思っています」

 キャリアの初期、「時をかける少女」や「天国にいちばん近い島」で主演して、主題歌も歌ったことが今も生きている。
●楽しみは姉のぬか漬け

 そんな原田のオフの楽しみは、近所で暮らす母親と、姉家族と、そろっての食事だそう。

「姉が作るぬか漬けがとってもおいしいんですよ。つい最近はゴーヤとセロリを試してみました。抜群でした」

 プライベートでの移動では電車や路線バスなど公共の乗り物もふつうに利用している。

「山手線やメトロにも乗っていますよ。イヤホンでお気に入りの音楽を聴きながら。テレビドラマに出ている時期でも、だれにも気づかれません」

 いつも自然体だから、街の風景にふっと溶け込んでいるのかもしれない。そんな淡い雰囲気も、新作の歌ににじんでいる。

(ライター・神舘和典)

AERA 2017年7月10日号

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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