安倍内閣の先輩からも苦言が相次ぐ。前防衛相で陸自出身の中谷元氏は、「自衛隊の政治的中立が誤解されるようなことを言ってほしくないよね」。同じく防衛相だった小野寺五典氏も「軽率でしたね」とみる。「私も講演では決まり文句で『防衛省、自衛隊はこの国をしっかり守る』と言ったが、選挙応援では控えた。稲田さんはそれが出ちゃったんじゃないか」

●幹部の心が離反

 事態はより深刻だ。稲田氏の相次ぐ失態に自衛隊幹部らの心は離れている。ある防衛相経験者に背広組幹部はこう語った。

「政治活動のために組織を使う人です。相手にせず、自由にやらせていただいています」

 昨年の防衛相就任早々、しこりを生んだのがジブチ訪問だ。稲田氏はソマリア沖で海賊対策にあたる自衛隊の拠点を8月中旬に視察。この出張が、前年まで終戦記念日に続けてきた靖国神社参拝を中韓の反発を気にして避ける「国外逃亡」に利用されたと今も思われている。

 別の背広組幹部は「制服組を統制できていない」とあきらめ顔だ。今年5月、制服組トップの河野克俊統合幕僚長が、自衛隊の存在を明記する安倍氏の改憲案について「一自衛官として申し上げるなら非常にありがたい」と発言。この幹部は「防衛相が注意すべきだったが、官邸の意向で不問になった」と話す。

 制服組の幹部もそこを見透かす。今回の発言の受け止めは士気が下がるというより冷淡で、「どうせ8月の内閣改造でいなくなる」との声すら出る。

 だが、自衛隊の最高指揮官でもある安倍首相が、かつて「将来のリーダー候補」と評した稲田氏を更迭する様子はない。菅氏は記者会見で「説明責任を果たし、誠実に職務にあたっていただきたい」と繰り返す。民主党政権で防衛相を務めた北沢俊美氏は文民統制が危ういと語る。「制服組は今は官邸が抑えているが、加計や森友の問題はおかしいと思っているよ。稲田さんをかばい続けて安倍さんの力が落ち、制服組が政治に文句を言い始めたら本当に危ない」

(朝日新聞専門記者・藤田直央)

AERA 2017年7月10日号