こうした中、FRB(米連邦準備制度理事会)は6月14日、0.25%の利上げを決めた。また、FRBのイエレン議長は、量的緩和で膨らんだ保有資産の縮小に着手する意向で、早ければ9月にもバランスシートの正常化に踏み切るとみられている。

 しかし、利上げに対する市場の反応は冷淡だった。政策金利を引き上げたにもかかわらず米国の長期金利は一時2.10%と7カ月ぶりの水準にまで低下し、東京市場では円高・株安が進んだ。14日の円相場は一時1ドル=108円台まで上昇し、翌15日の日経平均株価は4日続落。市場はFRBの強気の米景気拡大シナリオに懐疑的で、さらなる利上げは来年に先送りされるのではないかとの見方が支配的だ。利上げペースが鈍化することになれば、円高圧力はさらに高まる可能性があり、日本株にも下げ圧力が加わる可能性が高い。

 実はFRBが利上げしても長期金利が低下する現象は、2004~06年にかけても生じた。当時のFRB議長であったグリーンスパン氏は、この不可解な現象を「コナンドラム(謎)」と呼んで警鐘を鳴らしたが、その後、低金利は住宅バブルを招き、金融危機の火種となった。

 一方、日本経済も財政出動と日銀の異次元緩和政策というアベノミクスが推進されても、貯蓄から投資へとマネーは動かず、銀行や信用金庫などの金融機関に集まる預金は17年3月末時点で過去最高の1053兆円と、1千兆円の大台を突破した。

 また財務省の17年1~3月期法人企業統計によると、全産業ベース(銀行、保険業を除く)の利益剰余金は、390兆3900億円と過去最高を記録。金融機関の預金と企業の内部留保に貯まる巨額なマネーは、設備投資や消費に回らず、実感なき景気回復が続いている。外国人投資家の失望売りを招けば、株価は元の木阿弥となりかねない。

(金融ジャーナリスト・森岡英樹)

AERA 2017年6月26日号