悪気があって言ったのではないと分かっている。でも、人の目が怖くなり、レズビアンであることは「言えない」と思った。

 カミングアウトできないことによる心の壁は、望まない着ぐるみを着ているようだと話す。

「もっと身軽になって、好きなことを言って、好きなことをして生きたいです」(りぃなさん)

●「この辺にはいない」

 ここ数年で、日本でもLGBTという言葉が一気に広がり定着した。しかし、LGBTに対する差別や偏見は社会に根強い。とくに地方では、状況はさらに厳しい。「評判や噂」にさらされ、「家」があったとしてもいづらい。最も重要なはずの親子や家族間での相互理解が、高いハードルになっているのだ。

「同性愛者は、都会にはいるけどこの辺にはいないわ」

 バイセクシュアルのまいさん(31)は2年前、東海地方に暮らす母親(56)にカミングアウトすると、諭すようにそう言われた。

 いるわよ──。まいさんは、この言葉が喉元まで出かかったが、黙って気持ちを抑えた。

 保守的な地域だ。両親は娘の気持ちを理解しようとせず、世間体だけを気にした。父親(61)は、まいさんがバイセクシュアルであると聞くと言った。

「墓場まで持っていく」

 今秋、まいさんはパートナー(28)と結婚式を挙げる予定だ。けれど、両親から式には出ないと言われている。母親は告げた。

「式であなたの隣に女性がいる状態を見たくないの」

 まいさんは言う。

「地方では同性カップルは異質なものという刷り込みが強いと実感します。私たち2人の未来に、親と一緒に笑い合っている姿は想像できません」

 静岡県で暮らしてきたレズビアンの若林果歩さん(24)は、地方での生きづらさをこう話す。

「小さい町だと、目立つことをすると叩かれるんです」

 レズビアンと自覚したのは高校1年の時。地元をLGBTが住みやすい街に変えたいと思い、20歳の時から顔も実名も出し活動をしてきた。やがてテレビなどでも紹介されるようになると、同じ地元のレズビアンからネットでディスられるようになった。

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