「生意気」「何、あいつ」……。

 そんな狭い世界が嫌になり昨年、東京に引っ越した。

「地方にはLGBTはいないって思われています」(若林さん)

 こうしたLGBTへの偏見や差別は、貧困に直結しやすいといわれている。

●居場所がなく孤立

 LGBT向けコミュニティースペースを運営する「LOUD」(東京都中野区)代表の大江千束さんは言う。

「異端視され、社会から容認されないとメンタリティーの脆弱性につながります。メンタルの問題を抱えると勉強や仕事がうまくいかなくなる。そうなると負のスパイラルに陥り、貧困になるリスクが高くなります」

 女性の場合はより深刻だ。女性は非正規が多く、収入も低い。レズビアンカップルの場合、どちらかが失職すると一気に生活困窮に陥る。さらに地方では、より貧困になりやすい傾向があると、大江さんは指摘する。

「仮に、LGBTだと開示をしても地方は周囲からの理解を得られない場合も多く、そうなると地元で仕事に就くことも難しい。その結果、生活困窮に結びつき、コミュニティーなど居場所がない場合は孤立していくという悪循環が想定されます」

 関西の地方都市に住むトランスジェンダーのシンジさん(39)は、そんな一人。

 女性として生まれたが、今は「男」として生活する。

 正社員で働いていた20代半ば、3歳年上の同僚の女性に告白したところ、職場内で無視され始めた。やがて、「元女」だったことをネタにされるように。耐えかねて、退職。新しい職場でもまた触れられるのかと思うと、就職するのが怖くなった。プライベートなことを聞かれない派遣社員の道を選び、派遣の仕事を転々とするようになった。

 今は年収200万円程度で、家賃月4万円のアパートに一人暮らし。体調を壊しても医療費を出す余裕がなく、受診していないという。シンジさんは言う。

「一人ひとり生き方は違うのに、型にはまった人の生き方しか守られていない気がします」

 差別が貧困を生む“負の連鎖”。背景にあるのは何か。

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