生きる喜びは、他人の感動とは関係ありません。このお菓子めちゃくちゃうまい! とか、蟻を眺めて1時間とか、そういうことの中に輝いているものです。大人だってそうですよね。命の尊さは、今この瞬間にあります。

 親の出産武勇伝を聞かせて感謝の言葉を述べさせるよりも、10歳の子供が今何を感じているかを知るほうがうんと大事。彼らが笑ったり悩んだりして生きている姿を見れば、イベントなんてなくても感動します。

 先日、12歳の次男が「おじさんになりたくないなあ」と言うので「大人になるって自由になるってことでもあるよ」と言ったら「僕、自由だよ」と答えました。彼はアイスかなんか食べていましたが、私はおおお~と密かに胸震わせてその顔を眺めていました。

 奇跡はそんな時に起きます。地味で、身近な瞬間に。親子愛を人前でイベント化しないと感動しないのなら、それは何に感動しているのでしょうか。子供は大人たちの泣けるネタではないのです。

AERA 2017年6月5日号

著者プロフィールを見る
小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

小島慶子の記事一覧はこちら