撮影/写真部・岸本絢
撮影/写真部・岸本絢

 沈まぬはずの“電機の巨艦”が1兆円超の巨額損失の渦に飲み込まれようとしている。原因は原発事業の失敗だ。成長期や昭和のニッポンを力強く牽引し、明日は今日より豊かな生活をもたらした名門企業で、一体何が起こったのか。そのとき社員や関係者は何を見て、どう感じたのか。そして何が元凶だったのか。AERA 2017年4月17日号では「苦境の東芝」を大特集。関係者証言やジャーナリストの分析で全貌に迫った。

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 知人友人に尋ねるのは当然のこと、東芝社員が集まるスナックがあると聞けば足を運び、社員寮を見つければ手紙を投函した。東芝凋落の潮目を、現場はどう感じているのか。証言を拾うことで、企業ガバナンスの教訓が得られると考えた。

 メディアの取材攻勢により、東芝社内では取材に応じないよう社員に指示が出ていることは複数から耳にした。AERAが取材した社員や関係者は問題意識を持ちながらも、東芝に対してある種の誠実さを貫いているように見えた。

 世界ナンバー1シェアを誇った「ダイナブック」を生んだ青梅事業所が3月、閉鎖した。かつての活況を元幹部にどうしても聞きたかった。取材に応じてもらうには、誠意を見せるしかない。足を運んでいることを証明するため、郵送ではなく、2日続けて手書きの手紙を投函した。3日目に非通知で電話があった。
「まだ頑張っている仲間がいる。東芝を悪く言いたくない」

 経営幹部の暴走により始まった東芝の凋落。リストラやボーナスカットなど、そのしわ寄せは現場が受けている。愚痴の一つでも言いたくないのか。

 現役社員ならまだしも、OB・OGや東芝が2015~16年に行ったリストラですでに退社した社員まで口は堅かった。

 事業の売却や工場閉鎖などに伴い、東芝では今後もリストラが数万人規模で進むとも考えられる。電機・情報ユニオン書記長の森英一さんは言う。

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