安倍首相は、「北朝鮮のミサイルは新たな脅威の段階に入っている。提言をしっかり受け止めたい」と応じた。同月24日の国会答弁でも「従来の発想にとらわれず検討すべき」と含みを持たせている。

 外国の領土に届く「矛」の兵器保有を、日本は憲法9条や米軍との役割分担から控えてきた。軍事的にも疑問の声が上がる。ノドンを載せる移動式発射台は北朝鮮に約50台あり、その位置をつかむのは難しいからだ。また、日米韓の役割分担として、ミサイル施設への攻撃は北朝鮮により近い場所に基地を持つ米韓が当たるのが合理的だ。

●トランプ氏の腹一つ

 だが、北朝鮮と戦う状況をさらに詰めて考えれば、攻撃を米韓にお任せだと、日本向けのノドンへの対処が後回しにされるおそれがある。政府内には、「有事に米韓との結束が揺らがないよう、日本の姿勢を示すシンボルとして敵基地攻撃能力が必要」との見方も出ている。

 そんな議論にお構いなく、北朝鮮がICBM発射や6回目の核実験に踏み切るかもしれない。「力による平和」を掲げるトランプ政権の反応次第で東アジア情勢は一気に流動化する。

 道下氏は対話が必要だと説く。

「追い込まれた北朝鮮には核・ミサイルしか外交手段がない。核兵器を持つなら対話をしないという建前論では解決しない。追い込むばかりではヤクザは更生できない。生計が立つ道筋をともに考えるべきだ」

 日朝間では今世紀に入り、首相が2度平壌を訪れたが、対話は絶えて久しい。危機を避ける手立ては日本にあるのか。

(朝日新聞専門記者・藤田直央)

AERA 2017年4月10日号