中部地方に住む女性(28)は昨年次男を妊娠した際、産科医に私的バンクへの臍帯血の保管を相談し反対されたが、悩み抜いた末に保管を決めた。3歳になる長男を出産した際に保管せず後悔した経験があったからだ。

 長男は出産時のトラブルで、重症新生児仮死で生まれ、脳性麻痺になった。ネットにも本にも「根本的な治療はない」という情報ばかりだったが、海外で自己の臍帯血を使って子どもの運動機能が回復したというニュースを見つけた。ところが出産した産院に電話すると、「依頼がなかったから臍帯血は採っていません」との返事。臍帯血はへその緒や胎盤の中に含まれる血液で、出産時にしか採取できない。「私が無知やったから……」と自分を責めた。

「臍帯血による再生医療研究会」代表の相良祐輔・高知大学特任教授によると、臍帯血に含まれる幹細胞には、組織再生の能力があると考えられ、現在、根本治療のない脳性麻痺児に臍帯血を輸血することで、運動機能回復にも効果が認められる実験成績を得ているという。相良医師は現在、厚生労働省の認可のもとに、高知大学で自己臍帯血を使った臨床研究を進めている。

 海外ではきょうだい児の臍帯血を使った治療も始まっており、女性の臍帯血保管は長男の治療への望みでもある。

 3人の子どもの臍帯血を私的バンクで保管している神奈川県横須賀市の三宅寛子さん(39)は言う。

「出産は、無事に生まれてあたりまえじゃない。これは子どもたちへのお守りなんです。高額だけど、使う日がこなければいいと思っています」

 出産にかかわることは、後悔しても取り返しがつかないことも多い。犠牲になるのは赤ちゃんだ。親にとっても大きな心の傷となる。正しい知識を学び、納得することが最善だ。

(編集部・深澤友紀)

AERA 2017年3月6日号