●展覧会も進化させた

 演出も立体的だ。入場時に手渡されるヘッドホンをつけて展示に近づくと「わ、ボウイが喋ってる!」。作品解説ではなく、展示品に関連した肉声インタビューや楽曲が流れる仕掛けだ。天井には読書家だったボウイが選んだ必読書100点がつるされ、影響を受けた人物のコラージュ映像が流れる。チャプリン、フロイト、ブレヒトらに並んで三島由紀夫、坂東玉三郎、山本寛斎の姿も確認できた。「観客が展示と一体化できるような」臨場感ある演出のためにV&A博物館はセットデザインを美術展専門ではなく、ロンドン五輪開会式を担ったライブパフォーマンス専門のデザイン会社に依頼したという。

 この体験型展示は、ボウイ展を機にV&A博物館の定番となった。未知なる表現の可能性を探究してきたボウイは展覧会というジャンルでも世界標準を一気に進化させてしまったのだ。

 デヴィッド・ボウイは博覧強記で好奇心旺盛で凝り性で、いつも旅をしていて、インタビューではしばしば「今ハマっているもの」についてのウンチクを披露していた。本展キュレーターのひとり、ヴィクトリア・ブロークスさんは言う。

「ボウイの人生哲学がそのまま表れた展示になった。世界に対してオープンでリベラルであること、偏見にとらわれず異質なカルチャーを受け入れること。ボウイの生き方は現代社会にとって一層大事になっていると思います」

 ボウイという多面的で自由な表現者を表すにはこの方式でしかあり得なかった。そこがまさにデヴィッド・ボウイであるなあ、などとミーハーファンでも禅問答したくなるようなディープな展覧会だ。

(ライター・鈴木あかね)

AERA 2017年1月23日号