一方、法定後見は判断能力の衰えた本人に代わって近親者などが家庭裁判所に申し立て、家裁が後見人を選定。司法書士など専門職が選ばれることも多いが、悪質な専門職に悩まされるケースも増えているという。

 弁護士や司法書士など専門職の後見人による横領事件は15年には37件となり、被害総額は1億1千万円にのぼった。

「専門職が後見人についても、資産が多い場合などは後見人に監督人をつける運用も始まっている。本人の資産から後見人と監督人にダブルで報酬を払わされるのは手痛い出費になる」と宮田さんは指摘する。

 そもそも、後見制度は財産の管理・維持など「財産を守る」のが基本。預貯金があるのに実家を売却しようとしても「経済的な合理性がない」と家庭裁判所で却下される可能性が高い。

 また、後見制度は親が認知症になってから発効するが、家族信託は親が元気なうちから始められ、親の希望をかなえるための手段として使える。親が元気なとき、認知症になったとき、そして死亡した後と、ワンストップで親の意思をかなえる財産の管理や運用、処分ができる。

 Aさんも父には「お父さんの将来の介護をサポートするために、必要なときはお父さんの預貯金を使えるように家族信託を組みたい」と提案した。財産を要求するわけではなく、「親が快適に過ごすための手伝いをしたい」というスタンスだと、親も受け入れやすい。

 都内在住の会社員・Bさん(50代)は、田舎に土地やマンションを所有している母のことが気がかりだった。というのも、母のもとには所有物件の書類と間違えそうな内容の勧誘やダイレクトメールが次から次へと舞い込んでくるからだ。必要手続きと間違えて振り込みそうになったこともあり、Bさんは気が気ではない。とはいえ、Bさんが管理を引き受けるために母が所有する不動産をもらい受けると、贈与税が発生する。

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