相続財産が自宅など不動産しかない場合も活用できる。不動産をきょうだいで相続して共有名義にすると、売却などの法律行為をするときはきょうだい全員の署名捺印が必要になり、全員の同意が得られないと売却できなくなってしまう。しかし家族信託を使って1人だけを受託者にすれば、受託者に不動産の管理や処分の権限を集約できる。その代わり、他のきょうだいは売却した時の代金など利益を享受できるように信託を組んでおけば、揉めずに済む。

「“家族信託を組めば相続税が○割軽減できる”といった単純な節税効果はないものの、親の預貯金の一部で投資用の中古マンションを購入すれば相続税評価額を圧縮でき、相続税を減らすこともできる。介護施設入所後に誰も住まなくなった実家を子どもが売却できれば、空き家対策にもなる」(横手さん)

●円満な相続の切り札

 ただ、家族信託にも問題点はある。適切な受託者のなり手がいない家は利用することが難しいほか、きょうだいの一部と親だけで家族信託を組むと、家族間で確執が生じる可能性がある。また、家族信託に精通している専門家もまだ少ない。財産を管理するうえでは金融機関との付き合いが欠かせないが、銀行員などの知識も不十分だという。

 とはいえ、家族信託は遺言や後見制度の使い勝手の悪さを補完し、家族で取り組む財産管理と承継の全く新しい手法。

「“親の財産を快適な老後のために使ってあげたい”と親の立場に沿った提案をし、家族で話し合って納得いく支援体制を考えるのが、円満な相続への第一歩です」(宮田さん)

 無駄な争いを避け、円満な相続を目指すために、家族信託の需要はますます高まりそうだ。(ライター・加納美紀)

●遺言書は書かなくていいの?「家族信託」だけじゃなく遺言書とセットがなおいい

 公正証書遺言の作成件数はまだまだ少ない。遺産相続トラブルは激増し、家庭裁判所での相続に関する相談件数はこの20年間で約3倍に増えている。

次のページ