昨今、安倍政権と神社界の“近さ”が指摘されている。神社本庁関係団体である政治組織「神道政治連盟」と友好関係にある国会議員の多くが、安倍内閣の閣僚となっている。一部神社の境内では、憲法改正を訴えて署名集めをする。政治への影響力を危惧する報道も増えてきた。

 たとえば16年1月23日付の「東京新聞」は、「忍び寄る『国家神道』の足音」という見出しで、東京都内の乃木神社や赤坂氷川神社で「私たちが考える憲法改正」といったノボリが立てられ、改憲を訴える署名用紙が置かれていた、という記事を掲載した。はたして、こういう動きに、全国の一般神主はどういう印象を持っているのか。

「特に関心ないです。自分の生活で精いっぱいなので」

 前出の東北地方の神社の宮司は、そうボソリと言うだけ。ほかの神主にも聞いたが、みな一様に同じような反応だった。
「金とヒマのある神社はいろいろできていいですね。乃木神社、赤坂氷川神社なんて、全国有数のお金持ち神社じゃないですか。平日は公務員という僕のような身分からは考えもつかない行動です」(中部地方の神主)

「私自身は保守だから、改憲には賛成。ただ、うちの神社は山奥で、署名集めは何の意味もないからやらない」(九州の神主)

 なかには、

「神社本庁とケンカする意味もないからうちも入っていますが、運営実態は全国に1割もない金満神社のサロンですよ。政治運動も、そういう恵まれた階層だからなされているもの。われわれ“くわん主”には関係のない話です」(関西の神主)
 と言い切る人までいた。

 神社本庁が設立されたのは、終戦後の1946年2月3日。それ以前の大日本帝国体制下において、神社とはいわゆる「国家神道」の機関として扱われ、神主たちは公務員待遇だった。また当時、神道は「国家の祭祀」とされ、宗教ではない、との建前の中にあった。しかし終戦で国家神道体制は解体され、新しい日本政府からも切り離された。神社界が、そのとき設立したのが、「宗教法人神社本庁」だった。

 神道が独立独歩の宗教団体として自立を迫られたのは、戦後が初めて。そのとき多くの神社はまともな経済基盤を持たなかった。それは今もまったく変わらない。

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