2016年のNHK紅白歌合戦に初出場する歌手の会見。おそろいのジャケット姿の欅坂46が目立った。17年もアイドルグループが活躍するのか/16年11月24日  (c)朝日新聞社
2016年のNHK紅白歌合戦に初出場する歌手の会見。おそろいのジャケット姿の欅坂46が目立った。17年もアイドルグループが活躍するのか/16年11月24日  (c)朝日新聞社
田中秀臣(たなか・ひでとみ)/上武大学教授/1961年生まれ。早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。専門は日本経済思想史。著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)など (c)朝日新聞社
田中秀臣(たなか・ひでとみ)/上武大学教授/1961年生まれ。早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。専門は日本経済思想史。著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)など (c)朝日新聞社

 2017年が幕を開けた。16年は、トランプ氏の大統領選勝利に代表されるように、世界中で既成概念や秩序が「反転」した年だった。17年の芸能界はどうなっていくのか、上武大学教授の田中秀臣さんに話を聞いた。

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 21世紀に入ってからのアイドル市場は順調に拡大してきました。女性は数年前に「アイドル戦国時代」と言われる絶頂期を迎え、男性は景気に左右されず堅調に人気が推移してきたのです。しかし、2016年は市場が需要と供給の両面から縮小へ転じる、ターニングポイントとも言える年になりました。

 男性アイドルでは、国民的人気を誇っていたSMAPの解散が大きい。SMAPは「卒業のないアイドル」として、20代を過ぎても人気を保ち続けるという新しいモデルを確立。平成に生きる人と歩みを共にし、成長してきた稀有な存在でした。老若男女から受け入れられるスターの不在は、アイドル市場に大きな影響を与えることは避けられません。

 一方、女性アイドルも国民的スターの不在が続いています。牽引役であるAKB48は、前田敦子、大島優子に続くスターを生み出せずにいます。乃木坂46、欅坂46などの姉妹グループに人気がシフトしていますが、知名度はアイドルファンの域を出ません。

 さらに、16年は小・中規模のグループを含め、卒業や解散、引退が相次ぎました。高橋みなみや小嶋陽菜らが卒業を発表したAKB48だけでなく、ハロー!プロジェクトの℃-ute、有力地下アイドルのGALETTeらが解散を発表しました。解散や引退はコアファンを失望させ、アイドル離れを引き起こします。

 日本のアイドル史を振り返ると、スターはいずれも不況時に登場しています。第1次オイルショックの1973年に山口百恵や桜田淳子。第2次オイルショック後の80年に松田聖子、少し遅れて小泉今日子中森明菜が登場しました。円高不況が始まった85年におニャン子クラブがブレークし、リーマン・ショック後の09年、AKB48が台頭しました。

 なぜアイドルが不況に強いのか。消費意欲が減退し、内向き志向になると、テレビやインターネットを通じて疑似恋愛を楽しめるアイドルに人気が集まります。一方、景気が回復し所得が増えると、購買意欲が上昇し、より現実的で物質的な消費へ目が向くようになります。

 さらに、好景気はアイドルの人材難を引き起こします。不況で就職難になれば、一発逆転を狙える芸能界に活路を見いだす人が相対的に増える。目指す人が増えれば、スターが生まれる可能性も高まります。一方、好景気で就職の選択肢が増えると、ハイリスク・ハイリターンなアイドルを選択する人が減るのです。

 17年は景気が回復する一方でアイドル人気が衰える、冬の時代の幕開けになるでしょう。特に女性は、近年社会進出が進み、活躍の場も広がっています。経済的な事情を理由にデビューしたという乃木坂46の橋本奈々未が芸能界引退を発表したのも、こうした事態を象徴する出来事と言えるかもしれません。

(構成/編集部・市岡ひかり

AERA 2017年1月16日号