防衛大学校の学生有志たちの靖国神社参拝。陸海空軍を持たず、交戦権がない戦後憲法下では、「戦死」はありえないとされてきた (c)朝日新聞社
防衛大学校の学生有志たちの靖国神社参拝。陸海空軍を持たず、交戦権がない戦後憲法下では、「戦死」はありえないとされてきた (c)朝日新聞社
2013年12月26日、安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。その後、米国が不快感を示してから、首相の参拝は途絶えている (c)朝日新聞社
2013年12月26日、安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。その後、米国が不快感を示してから、首相の参拝は途絶えている (c)朝日新聞社

 2016年の新語・流行語大賞は「神ってる」。“聖地巡礼”“パワースポット”がにぎわいを見せ、神様が身近にあふれる。3・11から6年、一人ひとりがそれぞれの形で宗教と向き合う時代。日本の宗教にいま、何が起きているのか。AERA 1月16日号では「宗教と日本人」を大特集。

 246万6千余柱。幕末以降のおびただしい数の「戦没者」を祀る靖国神社は、政治に翻弄され、また翻弄してきた。来年迎える明治150年。節目の年になる。

*  *  *

 8月15日の終戦記念日。靖国神社では、黒の礼装に身を包んだ国会議員の集団参拝が恒例化している。超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の面々である。

 元自民党重鎮で、衆院議員の亀井静香氏は一度だけ加わり、やめた。理由はこうだ。

「国会議員はある意味で権力者。その権力者が徒党を組んでお参りするのは良くないと思ったから、翌年からは一人でお参りしました」

 右派国会議員の中でも亀井氏の「権力」との間合いの取り方は独特だ。この老練政治家が今、情熱を注ぐのが靖国神社の「賊軍」合祀(ごうし)運動である。「賊軍」とは明治維新の際に官軍とされた新政府側と対峙して戦死した志士たちを指す。

「世界中で分断と対立が深まる時代だからこそ、日本人の和の心を大事にすべきです」

 亀井氏はそう言って、身を乗り出した。

「国のためを思い、戦って死んだ人たちに敵も味方もない。今なお差別扱いするのはおかしいでしょう」

●宮司は徳川慶喜家から

 2014年8月の靖国参拝時、亀井氏は「白虎隊」「新選組」「西郷隆盛」といった具体名を挙げ、徳川康久宮司に合祀を打診した。亀井氏によると、徳川宮司はこれに同調したという。
「あの人は直系だからね」

 13年に第11代宮司に就任した徳川宮司は、幕府の15代将軍・慶喜の曽孫に当たる。今回、徳川宮司には本誌の取材に応じてもらえなかった。ただ、徳川氏が「直系」として微妙な心情を吐露してきたのは事実だ。

 16年6月に配信された共同通信のインタビューで、徳川宮司はこう持論を述べている。

「私は賊軍、官軍ではなく、東軍、西軍と言っている。幕府軍や会津軍も日本のことを考えていた。ただ、価値観が違って戦争になってしまった。向こう(明治政府軍)が錦の御旗を掲げたことで、こちら(幕府軍)が賊軍になった」

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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