コメの生産から加工・販売まで一貫して手掛ける大潟村あきたこまち生産者協会の涌井徹社長(68)はこう言って目を輝かせる。同社は今春からグルテンフリー食品の製造を始めたばかり。年末までにコメを使ったパスタ、パスタソース、カレーなど11商品をイトーヨーカドーなどのスーパーやドラッグストア、6千店舗に納入する見込み。来年には1万店舗を超す勢いだという。

 実は同社はコメを使った麺づくりに10年近く取り組んできた。コメの消費拡大に米粉増産を推進した農林水産省の方針に乗って、大規模な設備投資もした。しかし小麦より割高な麺にバイヤーは「コメ麺なんていらない」と冷淡で、期待したほどの売り上げにはならなかった。

 ところが、今春からグルテンフリーをうたって営業をかけたところ、

「バイヤーの反応がガラッと変わった」(涌井社長)

 とんとん拍子で商談がまとまり、すでに月20万食を製造、来春には月50万食を目指す。製造ラインはフル稼働に近く、来年早々にライン増設も予定している。コメの加工を専門とするだけにグルテンの微量混入(コンタミネーション)の心配もないのが強みだ。

「これまでは余っているコメを麺にも変えられますよというマイナスの発想だった。グルテンフリーは小麦の欠点をコメで補えるということ。全く新しい価値を生み出すものです」(同)

 欧米の複数の会社と輸出についても交渉中。海外のグルテンフリーパスタはコーンを使ったものが多いが、

「うちのパスタは食感も良く、とてもおいしいと評価してもらっている」

 と、十分勝算はあると見込む。

●コメが主食の地位奪還

 コメ生産者だけではない。

 大手米穀卸の「むらせ」はコメの消費拡大のため、自ら弁当を製造し飲食店も経営する異色の卸会社。同社は今年7月、低グルテンをうたった「ライスグラノーラ」を発売した。通常のグラノーラに多いメープル味に加え、きなこ味、お湯やお茶をかける和風だし味もラインアップ。朝ごはんを手軽に済ませたい主婦層に人気だという。

「朝食でご飯の消費が激減するなか、グラノーラは伸びている。消費者の健康にメリットのあるグルテンフリー食品でコメを原料にして、小麦に取られてしまった市場を取り返したい」

 社長の村瀬慶太郎さん(43)はこう意気込む。

 委託製造工場で小麦を扱うため、国際的な基準に照らしてグルテンフリーはうたえず、今は「低グルテン」として販売している。今後、独自に製造工場を持ち、専用のラインで製造することを前向きに検討中だ。

「コメ消費が減る中、卸がメーカーにならなければならない」

 村瀬社長はこう強調する。

「コメ業界は『主食』ということにあぐらをかいて、コメに何の付加価値もつけてこなかった。これからはいかに付加価値をつけ、消費者の生活の変化に合う商品を提供するかが大切。卸もこれに参入しなければ」

 危機感を募らせつつも、今後に希望も持っている。

「コメを白米として食べることにこだわりすぎた。これをやめれば、可能性はいっぱいある」

 農水省もグルテンフリーに注目し始めた。

 アメリカ、ヨーロッパではそれぞれグルテンフリーの認証制度があるものの、国内では未整備。農水省はグルテンフリーの基準のガイドラインを現在整備中で、来年3月末に公表する方針だ。

 この半世紀以上、コメの国内消費量は減少の一途をたどり「コメはもう主食ではない」という声がコメ農家からも聞かれたほど。グルテンフリーを切り札に、窮地に追い込まれたコメ業界の反撃が始まった。(編集部・山口亮子)

AERA 2016年12月5日号